一般社団法人日本フードサービス協会(JF)によると、コロナ禍に見舞われた2020年、外食産業全体の売上金額前年比は84.9%に落ち込んだ。特にパブレストラン/居酒屋は50.5%、翌21年も57.8%と厳しい。そんな不況下にあえぐパブやクラブなどで働く女性、いわゆる“夜の蝶”に生活費を渡し続けたら、贈与税はどうなる?相続税専門の税理士として事例をもとに解説しよう。(税理士、岡野雄志税理士事務所所長 岡野雄志)
富裕層の「紳士の嗜み」「旦那遊び」も
コロナ禍で下火になる中…
「夜の蝶」とは、パブ、クラブ、キャバクラなどで働く、水商売の女性たちのこと。川口松太郎の小説を原作とした、京マチ子、山本富士子の二大女優共演映画『夜の蝶』(1957年公開)から流行語となった。主人公ふたりは銀座で人気を二分するクラブのママで、実在のモデルがいたそうだ。
銀座のクラブといえば高級ナイトクラブの代名詞であり、座るだけで4万~5万円、ホステスとの会話や飲酒を楽しめば一晩で10万円はするといわれる。高級会員制クラブともなれば、財力だけでなく、地位や名誉、それなりの品格を身に付けた「紳士」でなければ、メンバーにはなれない。
今回の事例のAさんも、そんな高級クラブに出入りを許された老舗の若旦那だ。先代である父親は70歳を超えた今でも矍鑠(かくしゃく)として、業界での信頼も厚い。商いの仕込みは厳しいが、「紳士の嗜(たしな)み」や「旦那遊び」の心得をAさんに指南してくれたのも父親だ。
初めは父親に伴われて高級クラブを訪れたAさんだが、接待などで何回となく利用するうち、やがてひとりでも足を運ぶようになった。しかし、ほどなくこのコロナ禍である。感染症拡大防止策を受け、店も時短営業せざるを得なくなり、次第に休業も増えて、Aさんの足も遠のいた。
Aさんの家業とて、新型コロナウイルスによる不景気の波にいつのまれるかわからない。Aさんが商売に精を出す一方、仕事のストレスや外出自粛の閉塞感も抱え始めた頃、スマホに1本の電話がかかってきた。それは、あの高級クラブでなじみとなったホステスからだった。
聞けば、彼女はあのクラブを辞め、今は暮らしのために知り合いの店を手伝っていると言う。「コロナ対策もしっかりしているお店だから、一度遊びに来て」と言われ、仕事で外出した帰りに立ち寄ってみた。訪れてみて、Aさんは衝撃を受けた。
それは、お坊ちゃん育ちのAさんには想像に及ばない、こぢんまりとした店だった。暮らしのためとはいえ、つい先頃までシャンデリアに囲まれ、華やかなドレスを身にまとっていた、あの彼女が……。Aさんが彼女の生活の面倒を見るようになるまで、さほど時間はかからなかった。
しかし、新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置も解除となる頃、彼女はこつぜんと姿を消したのである。もちろん、Aさんも手を尽くして探したが、行方は杳(よう)として知れなかった。困り果てて相談した友人は、同情と皮肉の混ざった表情で言った。
「それは、君、ヤラレタね」
Aさんはハッと我に返って、青ざめた。