愚痴っぽい人は、嫌なことばかり経験している?

 愚痴っぽい人は、「こんな嫌なことがあった」「こんな目に遭って、本当に嫌になる」などと、ネガティブなことばかりを口にする。ポジティブなエピソードについてはめったに語ることがない。

 でも、そういう人は本当にそんなに嫌な目にばかり遭っているのだろうか。その人の身の回りでは、ポジティブなできごとはまったく起こっていないのだろうか? 家族や職場の人の話を聞くと、どうもそうではないようだ。けっして嫌な目にばかり遭っているわけではなく、ポジティブなできごとも経験している。

 そこで分かるのは、実際にはポジティブなできごともネガティブなできごとも経験しているのだが、愚痴っぽい人はなぜか、嫌なエピソードばかりを記憶しているということである。だが、本人にはそんな自覚はない。自分は本当に嫌な目にばかり遭っていると思い込んでいる。そして嘆く。

 そこには「気分一致効果」が絡んでいる。気分一致効果とは、気分になじむできごとが記憶に刻まれやすいという心理法則である。

 愚痴っぽい人の場合、愚痴っぽくてネガティブな気分で過ごしているから、ネガティブなできごとばかり記憶に刻むのである。ポジティブなできごとも経験しているはずなのに、それはあまり記憶に刻まれない。自分の気分になじまないできごとは記憶に刻まれにくいからだ。

 気分一致効果は、記銘時(記憶に刻む時点)のみならず、想起時(記憶を引き出す時点)にも作用することが分かっている。そのときの気分になじむできごとが記憶に刻まれるだけでなく、その時の気分になじむできごとが記憶から引き出されるのである。それは、多くの心理実験によって証明されている。