8年弱にわたる第2次安倍政権下で消費税率は2度引き上げられた。歳入の基盤は強化されたものの、歳出も拡大し、財政収支の赤字は続き、政府債務残高は積み上がっていった。土居丈朗・慶應義塾大学教授は消費増税については評価するものの、歳出削減に切り込めなかった点を問題視する。特集『安倍晋三 レガシーの検証』(全9回)の#5では、土居氏に8年間のアベノミクス財政を検証してもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
消費税率引き上げは評価
歳出削減は不十分
――アベノミクスを財政面からどう総括しますか。
消費税率を5%から10%にまで引き上げた点は、歴代内閣との比較において高く評価されるべきだと思う。
その半面。歳出を削減し切れなかった。このため、財政収支を十分に改善することができなかった。
社会保障費については抑制できたが、増加ペースを緩やかにしただけのため、財政健全化には不十分だった。また、教育や保育の無償化に消費税の引き上げによる増収分を充てた。
――第2次安倍政権の初期は、景気が底を突いたばかりの時期でした。
円高による打撃をカバーする意味もあって財政支出を拡大した。これがなければ2014年4月に消費税率を8%に引き上げる環境にはなっていなかったかもしれない。
――その後、景気拡大期が続いていたにもかかわらず補正予算が常態化していました。
第2次安倍政権においては、補正予算が恒例行事化し、補正予算と翌年度の当初本予算を一体で編成する15カ月予算が常態化した。機動的な財政政策がアベノミクスの第二の矢ですが、あまりにも放漫に機動的な財政政策を使い過ぎたと言わざるを得ない。
安倍晋三元首相は25年度にプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという目標は降ろさなかった。これは、この目標を盾に予算要求を時に断ることで予算要求を管理し、求心力の維持に利用していたのではないかと思っている。
安倍元首相は消費税率を10%に引き上げたとはいえ、8%から10%への引き上げを2度延期した。それにより歳出歳入増のタイミングを遅らせことで「聖域」への切り込みが遅れたと土居氏はみている。その聖域は何か。次ページ以降、明らかにする。