アベノミクスの下、株価上昇や株式比率引き上げなどで年金積立金の運用益は増加し、年金財政を好転させた。しかし、年金、医療、介護など社会保障の各分野における抜本的改革には手を付けないままだった。鈴木亘・学習院大学教授は、安倍政権が強固な基盤を持ちながらも制度改革に切り込まなかったことを惜しむ。特集『安倍晋三 レガシーの検証』(全9回)の#7では、鈴木氏に第2次安倍政権の社会保障政策の評価できる点、できない点について語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
年金財政の好転、貧困解消
アベノミクスの貢献大
――第2次安倍政権下での社会保障政策をどう評価しますか。
社会保障改革自体に力を入れていたというよりは、アベノミクスという経済政策を通して社会保障への貢献が非常に大きかったと捉えている。
具体的には2点、大きな貢献があった。
第一に年金財政だ。株式などの資産価格上昇で運用益が増え、積立金の増加に寄与した。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2012年12月末の運用資産残高は111.9兆円だったが、20年9月末には167.5兆円にまで増加した。約8年間の第2次安倍政権下で50兆円前後の運用益が上がったことになる。積立金も時価ベースで12年度末から20年度末までで約55兆円増加した。
09年の年金の財政検証時には高い運用益を前提に100年間は積立金が枯渇しないシナリオを描いていたが、実際は40年には枯渇するような状態だった。しかし、運用益が上がったことで20年ぐらいは枯渇する時期が伸びた。
運用益の増加には、GPIFの運用ポートフォリオの変更も貢献している。14年に国内債券の比率を60%から35%にして、国内株式と外国株式の比率を12%から25%に引き上げた。アベノミクスでの株価上昇と円安のメリットをより多く享受できた。
また、雇用が増加したことで年金の保険料収入が増えた。第2次安倍政権の間に、雇用は500万人前後増加した。そのうち正規雇用が約150万人、非正規雇用が約350万人。
正規雇用の人は厚生年金の保険料を払ってくれる。加入基準の拡大で非正規雇用でも厚生年金保険料を支払う人が増えた。それだけ年金財政に貢献している。
二つ目は貧困の解消。(それぞれの国の生活水準と比べて困窮している世帯の比率を表す)相対的貧困率も改善した。12年には16.1%だったが18年には15.4%に改善した。子供の貧困率も12年の16.3%から19年には13.5%まで低下した。これも雇用が増加した影響だ。
――制度改革という面で進展はあったのでしょうか。
鈴木氏はアベノミクスによってもたらされた株価上昇、円安、雇用増加が年金財政や貧困の解消に貢献した点は評価するものの、制度改革という面ではほとんど成果がないと語る。次ページからその理由を子細に語ってもらった。