安倍晋三 レガシーの検証#8Photo:JIJI

アベノミクスの成果として雇用情勢改善が挙げられることが多い。しかし、改善が始まったのは旧民主党政権時代から。森田京平・野村證券チーフエコノミストは、雇用情勢の改善は人口動態の変化によってもたらされたものであり、アベノミクスの施策によるものではないと分析する。特集『安倍晋三 レガシーの検証』(全9回)の#8では、森田氏に雇用改善の実相について語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

雇用改善は人口動態の変化が主因
改善の始まりは旧民主党政権時代

――アベノミクスの成果として雇用の改善、大学の新卒者の就職率の好調さが挙げられることが多いです。

 安倍晋三元首相が政権の座に返り咲いた2012年は、1947年から49年に生まれた団塊の世代が65歳に達し始めた年だった。そのため、仕事を継続することをやめ、退職することを選択する人が増えた。

 その代替、補充として大学の新卒者も含めて労働需要が増えた面がある。アベノミクス下における失業率低下、有効求人倍率の上昇には、こうした人口動態の変化が大きく影響していると考えている。アベノミクスの成果としてみるべき要素は小さい。

 そもそも失業率や有効求人倍率の改善は旧民主党政権のときから始まっている。

 第2次安倍政権下で、戦後2番目の長さである71カ月間にわたって景気が拡大した。しかしその間の平均実質経済成長率は1%前後。この程度の成長率で失業率や有効求人倍率が改善したことの方が問題だ。小幅な成長ですぐに人手不足になるという問題が露呈した。

雇用改善は団塊世代の退職という人口動態の変化による影響が大きく、アベノミクスの成果としてみるべき要素は小さいとする森田氏。次ページからは雇用以外にもアベノミクスの成果とは言い難いものについても語る。