黒田東彦氏が2013年4月に日本銀行総裁に就任し、国債の購入額、ETF(上場投資信託)買い入れ額などを大幅に増額した。いわゆる異次元緩和である。当時、日銀政策委員会審議委員だった木内登英野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは「大胆な金融緩和」の有効性に疑問を呈する。特集『安倍晋三 レガシーの検証』(全9回)の#3では、木内氏にその理由を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
元日銀審議委員が効果小さく
副作用大きい異次元緩和に抱く疑問
――アベノミクスの第一の矢である「大胆な金融緩和」、2013年4月に黒田東彦日本銀行総裁が始めたいわゆる異次元緩和についてどう評価しますか。
金融政策の効果は金利が低下することによって得られる部分が大きいが、異次元緩和を始める時点ですでに日本の金利水準は著しく低かった。
短期金利は0.1%前後、長期金利である10年国債利回りは0.8%前後だった。それが、異次元緩和開始でそれぞれマイナス0.1%、0.2%に低下した程度だ。低下幅は非常に小さい。
だから、異次元緩和の経済や物価へ与える影響は小さかった。そうしたタイミングで始めたことに大きな問題があったといえる。
一方、副作用はさまざまな形で積み上がっている。それは日本銀行による国債の大量購入、ETF(上場投資信託)の購入で価格形成がゆがみ市場機能が低下することであり、それらを保有する日銀の財務リスクの増大である。
日銀による国債購入に頼って国の財政規律が緩んでいることや金融緩和を当てにすることで痛みのある構造改革が先送りされたことも副作用だ。
――2%の物価目標を維持し続けてきたことについてはどう考えますか。
次ページからは、開始のタイミング、財政規律の弛緩以外の異次元緩和を疑問視する理由について木内氏が語ります。