シティポップとオタク文化がなぜ結びついたのか?

 なお、日本文化が上述した音楽ジャンルで転用されていった理由については諸説あるものの、Vaporwaveのサンプリング・ソースとなっている時代の文化や経済を下支えしてきた日本の工業製品・技術が、1970~80年代の中流階級的暮らしと密接に結びついていることがその一因として考えられる。大量消費社会を再考する上で登場するのは、富士通、SONY、TOYOTA……といった、バブル景気の波に乗ってやってきた異国のガジェットだったのだろう。Vaporwaveの作り手は80~90年代前半生まれのミレニアム世代が多く、彼らが幼少期に親しんだこうしたガジェットたちは、ノスタルジーを呼び起こすものだったと思われる(https://gendai.media/articles/-/59738)。

 そもそも日本のアニメ・ゲームといったコンテンツが、特にZ世代を中心に高い支持を集めた背景には、90年代以降盛んに国外のTV局で放映され、若年層を中心に浸透していったことや、日本製のゲーム機が世界中で流行したことが大きく影響している。

 そういった下地のもと、ゼロ年代以降急速に発展・普及したインターネット・フォーラムがニッチとされた日本文化の人気をさらに押し広げ、2010年代初頭に流行した「Tumblr」や「Pinterest」といった画像共有SNSを起点に日本固有のサブカルチャー的イメージが広まっていったことが現在につながっている。

 日本では特段結びついていなかったシティポップとオタク文化のイメージが海外で融合していった理由としては、これらの画像共有サービスがカルチャーの文脈を重視せず、あくまでも単なる「イメージ」として際限なくシェアされ、雪だるま式に認知度を高めていったことが影響している。インターネットで発見された異国の音楽と画像共有サイトでシェアされたイメージが、それぞれ全く異なる背景を持ちながらYouTube等へシェアされる過程で、我々日本人にはない視座から「新たな文脈」を獲得していったのだ。

 また、国外のTVプログラムで繰り返し放映されていたレトロアニメに、シティポップ流行時の日本社会を想起させる背景描写などがたびたび登場していたことも、こうした流れを支えていると考えられるだろう。