あとは中国政府と国内事情との根比べ

 筆者の友人である台湾人ジャーナリストはこう言った。

「すでに中台関係は台湾人の関心外。だから、今回の『演習』が年末の選挙に影響することはないと思う。ただし、中国による台湾海峡封鎖や嫌がらせは今後も続くはずだ。それがいかに民生に影響するかによって、事態に変化が表れるだろう」

 中国には派手な「演習」を続けることができない理由もある。ペロシ議長の「無事」訪台に失望した庶民の傷を疼(うず)かせ続けるのは得策ではないからだ。というのも、中国国内には問題が山積している。経済不振、不動産問題、地方財政の逼迫(ひっぱく)、消費意欲の減退、失業の拡大、農産物の減収、エネルギー問題、長引く不便なコロナ政策、さらには人口少子化問題……どれもが人々の生活を直撃する問題であり、すでにあちこちで抗議活動が起きたり、不満の声が噴き出したりしている。いったんあちこちでブスブスとくすぶる不満が、何かのきっかけで火種になれば、台湾威嚇どころの騒ぎではなくなる。

 その証拠に、ペロシ議長訪台後の「演習」終了後に、「我軍は1000億元を超える費用を投じて我が国の威厳を示した」という記事が某ニュースポータルに出現したが、あっという間に削除された。この記事では「14億の人口にすれば、1人当たり100元程度ということになる」と述べているが、一方でこの記事とほぼ同時に「今年上半期、中国31省の政府財政収支が赤字に転落」という報道があちこちで流れた。

 それらはどの記事も「31省」とうたっているが、これは中国の地方政府から香港とマカオを除き、上海や北京も含めた「すべての地方省/自治区」を指す。つまり、全地方財政が今年上半期に赤字に転じ、最悪の四川省ではその赤字額は2800億元、つまり全国人口14億平均で1人200元にもなったことが分かった。

 中国はいつまで派手な軍事演習を続けられるのか。このまま中国が台湾海峡の封鎖を続けるには、台湾当局や庶民とではなく、国内事情との根比べになっていくといえるだろう。