テスラは上海ギガファクトリーに追加投資し
生産能力を年間100万台超に引き上げる方針

 19年、テスラは上海に「ギガファクトリー」と呼ばれる工場の建設を開始した。テスラにとって米国以外で初めての工場建設だ。その狙いは、EVの価格を引き下げ中国などの需要をより効率的に獲得することだ。

 背景には、共産党政権の経済政策に対する期待があっただろう。15年に習近平政権は産業振興策である「中国製造2025」を発表した。補助金政策などを用いて、自国のEVや車載用バッテリー、半導体などの製造能力の強化や、自動運転に欠かせない人工知能(AI)などの開発を加速した。

 18年以降、米中対立が激化し世界のサプライチェーンが不安定化する中で、テスラにとって中国の産業政策はEV生産に必要な資材・部品を安定的に調達する魅力的な要素に映っただろう。中国の人件費が米国を下回ることも、EV価格引き下げに有効だ。

 経済成長率の低下が鮮明化しているとはいえ、中国は世界最大の新車販売市場だ。共産党政権は、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を新エネルギー車(NEV)に定め、補助金などによって製造や販売を強力にサポート。中国のEVやPHV需要を押し上げている。需要をより効率的に取り込むために、最終消費者に近い場所で生産を行うことは理にかなう。なお、定めたNEVには含まれないが、ハイブリッド車(HV)を低燃費車として優遇してもいる。

 共産党政権のEV振興策を追い風に、中国ではBYDなどの現地メーカーもEV生産体制を立ち上げ、サプライチェーンが急速に整備された。このことがテスラの中国事業の急拡大に与えたプラス効果は大きいと考えられる。

 22年1月、上海におけるテスラの納車台数は5万9845台、そのうち4万台以上が輸出されたと報じられた。また、8月には生産開始から約3年で生産実績が100万台に達した。上海ギガファクトリーにおけるテスラのEV生産能力は、米国を上回った。テスラは追加の設備投資を行い、上海での生産能力を年間100万台超に引き上げようとしている。