テスラはBYDからバッテリーを調達へ
サプライチェーンは反グローバル化も

 中国のEVサプライチェーンとテスラの関係は一段と強まるだろう。近年、世界の自動車産業では複合的な要因を背景に、地産地消の動きが加速した。テスラはBYDからバッテリーを調達し、ドイツで生産するSUV型の「Model Y」に搭載するもようだと報じられた。

 さらにソフトウエア分野でもテスラが中国企業と関係を強化する展開が予想される。7月1日からの2カ月間、「北戴河会議」(共産党の重要人事や政策を議論する会合)が開催される河北省の北戴河で、テスラ車両の進入が禁止された。6月に習近平国家主席が四川省の成都を訪問した際も一部地区でテスラ車両の運行が制限された。

 その理由は、要人の移動データ保護など安全保障にあるようだ。テスラが中国の需要をより多く取り込むために、ソフトウエア面での中国企業との協業は避けて通れないだろう。

 その一方で、米国ではインフレ抑制法が成立し、北米生産のEVが優遇される。各国の事情に自動車生産がより大きく振り回されるようになっている。それは、グローバル化とは逆の、反グローバル化あるいは脱グローバリゼーションと呼ぶべき動きだ。

 グローバルにサプライチェーンが整備されて各国の需要に応じて供給が調整される状況に比べ、企業の事業運営の効率性は低下する。それを克服するために、テスラは競合他社に先駆けて中国市場に飛び込み、より多くのシェア獲得に集中している。

 エンジン車には10万点もの部品が使われる。わが国の自動車メーカーはエンジンを中心に安全と燃費性能が高い自動車を製造するすり合わせ技術を磨いた。それが完成車メーカーをトップとするすそ野の広い産業構造と雇用を支えた。

 旧来の雇用慣行などを要因に、本邦自動車メーカーの事業運営体制の変革には時間がかかる。その一方でテスラやBYDの成長によって中国EV市場の成長や、世界のEVシフトは加速するだろう。環境変化が激化する中で生き残るために、本邦自動車メーカーのトップは過去の発想に固執せず、新しいモビリティーの創造に集中する必要がある。