2022年8月、京セラやKDDIを創業し、「経営の神様」といわれた稲盛和夫氏が亡くなった。日本では大企業の経営者が政治的な立場を表明することは珍しいが、稲盛氏は旧民主党を全面支援し、09年の政権交代を後押しした。週刊ダイヤモンドは、新政権樹立の直後に稲盛氏を直撃し、旧民主党「応援団」として政治に深く関わった真意についてたずねた。「週刊ダイヤモンド」2009年12月26日・2010年1月2日号のインタビュー記事を再掲する。(ダイヤモンド編集部)

鳩山政権の内需刺激策は有効
大企業は自助努力で成長せよ

――景気動向をどう見ますか。

 企業活動で見ると、2009年度下半期は徐々に回復に向かっています。懸念される二番底はないと私は見ています。当社がかかわる電子部品関連は、中国や東南アジアを中心とした外需は堅調です。

 ただし、最近の円高は輸出企業にはきわめて厳しい。日本経済の実力以上の円高です。この点は個々の民間企業ではどうしようもないところなので、政策で改善するようにもう少し力を入れてもらいたいところです。

稲盛和夫氏

――内需の回復は見込めますか。

 鳩山政権は政策実行でもたもたしている感じはありますが、一連の政策案は内需刺激策として有効だと思います。

 例えば、ガソリン税などの暫定税率の撤廃で、1リットル当たり20~25円下がると、ガソリンは現状では市場価格で100円くらいまで値が下がる。地方はクルマ社会ですから、一般市民はそうとうな恩恵を受けます。

 高速道路無料化は、環境面での問題が指摘されますが、長距離トラックなどの物流費が下がり、産業界全体にとって大幅な負担軽減になります。

 子ども手当や公立高校の無償化なども、不況による減収などで疲弊した家計にはとても意味のある政策です。

 こうした政策を迅速に実行すれば、冷え込んだ消費を効果的に刺激できるのではないでしょうか。

――しかし、財政赤字はさらに拡大してしまいます。

 民主党は衆議院選挙のマニフェストに財政規律を掲げましたが、それは1~2年ほど保留としておいて、今は上向き始めた景気を後押しすべく、人びとを元気づける政策を思い切って実行すべきだと思います。

 また、企業や産業を巻き込んだ成長戦略がないという批判が世間では多く聞かれますが、国の予算も有限ですので、極論に聞こえるかもしれませんが、大企業は自助努力で成長していかなければいけないと思います。

――稲盛さんは以前から政権交代の必要性を訴えてこられて、民主党を支持してきました。

次ページでは、稲盛氏が政権交代の実現に向けて情熱を傾けてきた理由を打ち明けるほか、新自由主義路線や郵政民営化について見解を示す。明治維新を引き合いに、リーダー育成の必要性に関しても改めて強調する。