稲盛和夫氏Photo by Hiroki Kondo/REAL

2022年8月、京セラやKDDIを創業し、「ベンチャーの神様」といわれた稲盛和夫氏が亡くなった。バブル崩壊後の「日本列島総不況」に陥っていた約25年前、京セラとDDI(現KDDI)の名誉会長に退いたばかりの稲盛氏は週刊ダイヤモンドの取材に応じ、ベンチャーに関する持論を披露。ベンチャーの経営者は松下(現パナソニックホールディングス)やホンダになるために「悪魔の囁き」に用心すべきだと強調した。「週刊ダイヤモンド」1998年10月24日号のインタビュー記事を再掲載する。(ダイヤモンド編集部)

店頭公開で豹変するベンチャー社長
成功の資質は没落の引き金にも

 成功するベンチャーの社長は、ビジネスの才覚を持ち、勝ち気で積極的で、負けず嫌いなものだ。慎重すぎる人はそもそも、ベンチャー・ビジネスの世界に足を踏み入れない。

 ベンチャー社長は、会社第一主義で慎ましやかにやってきたはずだ。リスクと隣合せの不安の中で、慎重、謙虚を旨としてきたはずである。

 ところが、店頭公開するや豹変してしまう。キャピタルゲインとしてこれまで見たことのないような金額のカネを突然、手にする。

 何億円、何千万円という大金が転がり込む。すると、人間はええ加減なものでころっと変わる。よほどの聖人君子でないかぎりみな同じ。人間のさがだ。

 今まで慎重に、謙虚にやってきた経営者が、「みてみい、おれは生まれながらに成功を約束されていた」と自信過剰に陥る。おごりたかぶる。周囲にちやほやされていい気になってしまう。

 もともと勝ち気な性格だから、なおさらだ。自制するものがなくなる。ベンチャー成功の資質は、没落の引き金を引く資質でもある。

店頭市場は2004年に廃止されているが、店頭公開を上場と置き換えたとしても稲盛氏の議論は示唆に富んでいる。次ページでは、稲盛氏が、ベンチャーがパナソニックホールディングスやホンダになるために、経営者が持つべき「心構え」について語る。