ハーバード大学で働き方研究が推進される中、一部の日本企業の働き方は高齢化社会の先行指標として研究対象になっているという。その一方で、高度人材獲得競争では後れを取るなど、人材の面では課題も多い。今後どう解決していけばよいのだろうか。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
日本の経営者、管理職は
「心理的安全性」の重要性を学ぶべきだ
佐藤智恵(以下、佐藤) 近年、日本では長時間労働、過労死、パワーハラスメントなどが大きな社会問題となっており、企業では職場環境や企業風土に起因する不祥事も相次いで発生しています。国や企業はこうした重要課題をどうすれば解決できるでしょうか。
ジョセフ・フラー(以下、フラー) それは、すぐに解決するのが難しい問題だと思います。というのも、長時間労働やパワーハラスメントなどの問題は、その企業の文化、その国の価値観・風習などが原因となっていることが多々あるからです。
どの企業でも、マネジメントスタイルは基本的に上司から部下へと継承されていきます。つまり、同じ企業の中でDNAのように脈々と遺伝していくものなのです。というのも、マネジメントの手法は基本的には実地でしか学べないからです。
私は子どものころ、甲子園球場で阪神タイガースの試合を観戦して以来、ずっと阪神タイガースのファンですが(笑)、阪神の選手が、どうすればもっと打てるようになるか、もっとうまく投げられるようになるかを学ぶのは基本的には実戦ですよね。それと同じことが企業の社員のマネジメント学習にも言えるのです。
新たに管理職になった人は、自分の上司と同じ手法で部下を管理しようとします。なぜなら、それ以外にやり方を知らないため、上司の手法が正しいと思い込んでいるからです。
また会社で早く出世した人ほど、部下にも同じ方法で仕事をすることを強く求める傾向があります。自分が長時間労働に耐え、上司の叱責(しっせき)にも耐え、その結果、昇進したのであれば、それが自らの成功体験となり、同じことを部下にも期待してしまうのです。
このような社内で脈々と受け継がれてきたDNAを断ち切るのは至難の業であり、時間がかかります。では、どうすれば少しでも解決に近づけるのか。
私が日本企業の役員や管理職の皆さんにお伝えしたいのは、職場における心理的安全性の重要性です。多くの研究結果から、心理的安全性が確保されているチームの生産性は、確保されていないチームの生産性よりも高いことが立証されています。
つまり部下を厳しく叱責したり、無理やり従わせようとしたりすることは、もはやチームや企業の生産性の向上にも、リーダー自身の評価の向上にもつながらないのです。
今後は、上司から脈々と受け継いできたマネジメントスタイルを意識して変えていかなければ、社内で昇進するのが難しくなってくるでしょう。