ひたすら働き続けることを通じて、心を練り上げてきた人間だけが持つ、人格の重みや揺るぎない存在感――そういうものに接するたびに、私は働くという行為の尊さに改めて思いを馳せるのです。

 そして同時に、将来を担うべき、現代を生きる若い人たちにも、仕事で努力することを厭わず、仕事で苦労することから逃げず、ただ素直な心で一生懸命に仕事に打ち込んでほしいと思うのです。

 ときに、「いったい何のために働くのか」という自問が湧いてくるかもしれません。

 そういうときには、ただ一つのことを思い出していただきたい。

 働くことは人間を鍛え、心を磨き、「人生において価値あるもの」をつかみ取るための尊くて、もっとも重要な行為であることを――。

働くことが「人をつくる」

「よく生きる」ためには、「よく働くこと」がもっとも大切なことです。

 それは、心を高め、人格を磨いてくれる「修行」であると言っても過言ではありません。

 今から十年くらい前のことでしょうか、ドイツ領事の方と対談をさせていただいた折り、次のようなお話をお聞きしました。

「労働の意義は、業績の追求にのみあるのではなく、個人の内的完成にこそある」

 働くということの最大の目的は、労働に従事する私たち自身の心を練磨し、人間性を高めることにある。つまり、ただひたむきに、目の前の自分のなすべき仕事に打ち込み、精魂を込めて働く。そのことで、私たちは自らの内面を耕し、深く厚みのある人格をつくり上げることができると言われるのです。

「働くことが、人をつくる」――すなわち日々の仕事にしっかりと励むことによって、自己を確立し、人間的な完成に近づいていく。そのような例は、古今東西を問わず、枚挙にいとまがありません。世の偉人伝をひもとくと、必ずそのような事実に行き当たります。