正しい政策アベノミクスの
欠落部品は「分配政策」

 ところで、アベノミクスには資産価格の上昇から需要の増加と物価の上昇を目指すことが含まれていた。その結果、株式や不動産を多く保有している相対的富裕層がよりリッチになる一方で、給与が増えないサラリーマンは円安で実質的な購買力が低下するといった「経済格差」の拡大効果があった。

 加えて言うと、アベノミクスには、円安で日本の労働者の国際的相対賃金が低下することもあって、雇用市場で限界的な立場(クビになるかならないか、職が見つかるか否か)にいる経済的に弱い立場の労働者の雇用を改善する効果があった。

 経済的な強者層と弱者層にメリットがあって、中間層が相対的に落ち込むことは当初から予想されており、その通りのことが起こった。

 ただし、企業の収益が伸びた一方で、これが賃金に「トリクルダウン」する(こぼれて滴り落ちる)効果は期待ほど発生しなかった(企業の「ガバナンス改革」が併行して進んだことの“副反応”だった)。

 これに対して政権与党は、企業に賃上げを「要請」するなど、いわゆる春闘にあっては連合のような御用組合的労働団体よりもはるかに役に立ったのだが、不十分だった。

 そもそも賃上げは政府が「要請」するものではないし、企業としても株主の利益を差し置いてこれに応えられるものではなかった。

 ここに至って、アベノミクスがそもそも「分配政策」を欠いた政策パッケージであったことが見えてくる。

 経済的な弱者に対する再分配によるサポートは、企業に任せるのではなく、政府が積極的に取り組むべき政策課題だ。

 この点に関しては、コロナ対策で給付金政策に注目が集まるなど一定の進展につながりそうなきっかけはあった。しかし、政府や多くの政治家の理解が「給付金はバラマキであるからダメだ」という貧弱な理解を脱するものでなかった点に大きな「残念」があった。