浜田宏一Photo by Toshiaki Usami

7年8カ月余りに及ぶアべノミクスは戦後2番目に長い景気拡大期を演出した一方で、実質賃金は下がり、格差拡大や政府債務が戦時中に匹敵する水準に膨らむなどの「負の遺産」を残したともいわれる。安倍晋三政権の経済政策の指南役だった浜田宏一・前内閣官房参与(米イエール大学名誉教授)は、その功罪をどう考えているのか。特集『アベノミクス 継承に値するのか』の#3では、内側から見たアベノミクスとポストアベノミクスの政策の方向を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

異次元緩和は「A」の評価だが
マイナス金利以降は効かなくなった

――アベノミクスの成績をどう評価しますか。

「3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略)」の中で異次元金融緩和策は「A」の成績を付けられると思う。

 大胆な金融緩和によって円安、株高になり、企業業績が回復して投資を生み、それが雇用増や生産増につながった。人手不足で、大学の先生も新卒学生の就職を心配することがなくなった。

 コロナ不況で雇用者数はピークから減ったが、安倍政権の期間中に新たに約500万人の雇用を生んだことはアベノミクスの大きな成果だ。東京ドームの収容人員の100倍近い規模だ。

 それまで金融政策は金利だけを考えていて、金利がゼロになると効かなくなると大半の人が思っていた。

 白川方明総裁時代の日本銀行は、長期国債金利が10年物で1%以上あったのに、量的緩和を怠った。黒田東彦総裁になって日銀は、国債を買って市中の貨幣を増やす量的緩和が為替や株価、さらに経済に影響を及ぼすことについて身をもって示した。

――しかし「2年で2%の物価上昇」という、当初描いていたシナリオは実現しないままです。