9月25日にイタリアで総選挙が実施される。右派政党が統一会派を結成し、右派会派が政権を握る公算が大だ。公約を見る限り、財政拡張路線を取るのは確実だ。財政規律を求めるEU(欧州連合)との対立は不可避。イタリア国債の利回りの上昇圧力が高まり、ユーロ相場の重石となりそうだ。(第一生命経済研究所主席エコノミスト 田中 理)
パクス・ドラギの早すぎる終幕
失われる政治経済の安定
イタリアのコロナ危機克服と政治危機回避を託されたマリオ・ドラギ首相が早期退陣に追い込まれ、同国と欧州の今後を占う9月25日の総選挙が近づいてきた。
今回の選挙では、主要政党で唯一ドラギ首相の挙国一致政権に参加していない右派ポピュリスト政党「イタリアの同胞」、前回2016年の総選挙後にポピュリスト政権に参加した右派ポピュリストの「同盟」、シルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派の「フォルツァ・イタリア」などが右派会派を結成して戦う。
対する左派勢は、かつての政権与党で中道左派の「民主党」、前回選挙で勝利した左派系ポピュリストの「五つ星運動」、新興の中道左派政党「アジオン」、民主党出身のマッテオ・レンツィ元首相が率いる中道左派政党「イタリア・ビバ」などが統一会派の結成に失敗した。
五つ星運動は単独で、民主党は緑の党などと左派会派を、アジオンとイタリア・ビバの2党は中道会派を結成して戦う。
上下両院ともに定数の約3分の1の議席が小選挙区で、残りの約3分の2の議席が比例代表で戦われる総選挙は、統一会派を結成した右派には有利に働く。
ブラックアウト期間前の世論調査を集計し、統計的に分析した結果によれば、右派会派が平均して45.5%の支持を集め、上下両院ともに62%前後の議席を確保するとみられている。
右派会派とその他勢力との差は埋め難く、総選挙後に左派勢力が連立や連携を模索しても、政権発足に必要な過半数には届きそうにない。
なお、右派は会派内で最多の支持を集めた政党が首相を輩出することにあらかじめ合意している。総選挙後はイタリアの同胞のジョルジア・メローニ党首が次期首相に就任し、ポピュリスト色の強い右派の連立政権が誕生する公算が大きい。
国内外からの信任も厚いドラギ首相の下、イタリアが享受してきた束の間の経済・政治安定(パクス・ドラギ)は僅か1年半余りで幕を閉じる。
右派会派の新政権誕生でEUとの関係、財政政策はどう変わるのか。そして、それはイタリア国債の信認、ユーロ相場へどのような影響を与えるのか。次ページから解説していく。