フラットで、ダイバーシティが高いチームの物語

 初期の『スター・トレック』は視聴率も振るわず、表現に対する風当たりもきつかったとあって、ニコルズも一時は降板を考えたことがあるそうだ。しかし、公民権運動を率いたキング牧師がわざわざニコルズを訪ね、「ウフーラは黒人の子どもたちの目標だ」と、この役を演じ続けることを強く勧めたという。

 キング牧師は正しかった。ニコルズは実際に子どもたちの憧れのロールモデルとなり、未来を大きく変えたのだ。92年に黒人女性初の宇宙飛行士として宇宙に旅立ったメイ・ジェミソンは、幼い頃にテレビで見たウフーラが自身のキャリアの原点だと話しているし、後にドラマ『新スタートレック』に出演するウーピー・ゴールドバーグも、ウフーラがきっかけで女優を志している。

 70年代には、ニコルズが自ら、現実の宇宙飛行士の多様性の低さについて問題を提起。優秀なマイノリティーが宇宙飛行士に志願できるよう、NASAの採用活動の支援に乗り出し、多くの黒人宇宙飛行士、女性宇宙飛行士が誕生するきっかけをつくっている。

 ウフーラを含め、女性の描き方に古さは感じるものの、『スター・トレック』のチーム構成は、時代背景を考えれば驚くほどに多様性が高く、現代的だ。リーダーのカークこそ白人男性だが、女性クルーもアジア系クルーもおり、スポックに至っては、地球人とバルカン星人のハーフという設定である。しかも、彼らをつなぎ留める共通の目的は征服や戦闘ではなく「調査」なのである。