食生活や運動だけじゃない
「社会」も長寿のワケだったのに…

 個人の健康と社会――。一見すると、まったく無関係のように感じるこの2つに、なぜ深い結びつきがあるのか。それは「なぜ日本の高齢者は長生きなのか」ということを考えていくと理解できるという。

 日本が「長寿大国」ということに異論は挟む人はいないだろう。実際、WHO(世界保険機関)が発表した2022年版の世界保健統計(World Health Statistics)によれば、平均寿命が最も長い国は日本で84.3歳だった。

 この理由について、まず思い浮かべるのは「食生活」だろう。日本人が長生きなのは米を主食としているからだとか、生魚をよく食べているからだというような情報は、テレビの健康番組などでも頻繁に耳にする。近藤教授も食事がひとつの要因であることは間違いないという。

「日本が先進国で最も肥満が少ない国だというのは紛れもない事実で、それは食生活と運動が大きいと言われています。特に在宅勤務の増加で“コロナ太り”が問題になったように、日本人の場合、通勤で電車を何本も乗り換えるなど、たくさん歩かざるをえないという人もたくさんいます」(近藤教授)

 ただ、その一方で、日本人の長寿を食事や運動だけで説明してしまうのは「やや視野が狭い」と付け加える。

 海外の研究者たちの間では、「なぜ日本人は喫煙率が高いのに長生きなのか」というのは長く議論の対象だったが、近年は「日本の社会のあり方が長寿の秘訣」だという考え方が広まっている。なぜかというと、国内外から、健康長寿に「社会」が大きな役割を果たしているという研究結果が続々と集まってきているからだ。

「イギリスのある学者は、日本人が長寿なのは、日本社会が不安なく暮らせるからだと考えています。確かに、日本は国民皆保険があるので、もし何か病気になってもアメリカのように1日で100万円など高額な医療費を請求されることがありません。また、日本のように、女性が夜一人で安心して出歩けるような国は多くありません。治安が悪い地域では歩いているだけでも、不安やストレスを感じます。日本にはそういう悩みが少ないということです」(近藤教授)

「日本の治安の良さ」についてよく言われるのは、「財布を落としても戻ってくる」というものだ。近藤教授によれば、あるアメリカの研究者も、来日した際にタクシーにスマホを忘れたのだが、それが手元に戻ってきたことに大変感動をして、この治安の良い信頼社会も、日本人を長生きにしている理由のひとつだと確信したという。

 日本人を長生きにしている「日本社会」という要因について理解できると、「コロナ健康二次被害」の正体も見えてくる。