“顔を見る”意味
「ビデオオフ」も心をむしばむ?

 このように「人と人とのつながり」が健康や長寿に極めて大事だということがわかると、一人暮らしの方などは「もしまたステイホームになったらどうしよう」と不安になってしまうことだろう。しかし、そんな時に助けとなるのが「ネット利用」だという。

 先ほどの近藤教授らの調査で、インターネットを用いたコミュニケーションの利用を増やした高齢者と、増やさなかった高齢者の「うつ」のリスクを調べたところ、「ビデオ通話」でコミュニケーションを増やした高齢者は増やさなかった高齢者に比べて45%減だった。同様に「ソーシャルメディア」は35%減、メール・チャットも25%減という結果が出たという。

「この調査でわかったのは、モニター越しでも人と人が“顔”を合わせることの大切さです。メールを増やした高齢者では、顔が見えるビデオ通話を増やした高齢者ほど“うつ”は減っていませんでした。ただ、声が聞ければいいのではなく、やはり“顔を見る”ことに力があるのです。ですから、コロナ禍で流行したリモート飲み会なども、心の健康に関してはそれなりに効果があったと思われます」(近藤教授)

 そう聞くと、気になるのは、コロナ禍で増えたオンライン会議における「ビデオオフ」ではないだろうか。

 ネット接続環境が不安定だからとか、メイクをしていないから、などさまざまな理由で、オンライン会議で自分のカメラをオフにする人が少なくない。ビジネスマナー的によろしくないという意見もあるが、実はこれは「健康」という点でも避けるべきことかもしれない。

「やはり話をしている相手の顔が見えないと、ちゃんとコミュニケーションが取れているのかなと不安になりますよね。オンライン会議で、ビデオオフの参加者に声をかけたら返事がなかったりして“ちゃんと聞いているのか?”と心配になりますから」(近藤教授)

 考えたくはないが、もし再びコロナ禍のようなステイホームの時代になった時、オンライン会議やリモート飲み会がまた日常になってしまうだろう。

 その時、よほどの事情がない限りビデオは必ずオンにしておくことを心がけよう。馬鹿にするなかれ、このような小さなことの積み重ねが、我々の心と体を守って、長寿につながっているかもしれないのだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)