地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。
厚い鎧を身にまとう
現在生息しているもっとも原始的な脊椎動物はヤツメウナギとヌタウナギだ。どちらも外部の鎧がなく、進化した当初からそうだったと思われる。
メタスプリッギナなどの超初期の魚類と同じように、顎も対のヒレもない。それ以外の脊椎動物たちは、厚い鎧を採用している。
鎧をまとった魚類は、カンブリア紀の後半に登場する。
初期の魚類の多くは、まだ顎を持たず、内部から脊索で支えられていたが、鎧をまとっていた。
この鎧は、頭と咽頭のまわりは固い板でできていて、うしろの端は尾を動かせるようにゆるい鱗状になっていることが多かった。
鎧は何でできているのか
この鎧は、炭酸カルシウムではなく、リン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトという別の鉱物でできていた。リン酸カルシウムの鎧は、動物界では脊椎動物に特有のものだ。
初期の魚類の鎧は、通常、三層のハイドロキシアパタイトでできた、厚い三段ケーキのような構造をしていた。
土台にスポンジ状の層があり、中間にはやや密度の高い層、そして、いちばん上に、非常に硬くて、非常に密度の高いハイドロキシアパタイトの薄い層があった。
全身が歯で覆われる?
これらの三つの形態は現在、「骨」、「象牙質」、そして生物がつくり出すいちばん硬い物質である「エナメル質」と呼ばれている。
現在、骨、象牙質、エナメル質は、そっくり同じ順番の層で、私たちの歯に存在している。
脊椎動物に硬組織が進化した当初は、ようするに全身が歯で覆われていたわけだ。
現在でもサメの鱗は小さな歯の形をしており、そのためサメの皮はザラザラで研磨性があり、かつては紙やすりとして使われていた。
巨大なハサミ
脊椎動物が鎧を発達させたのは、カンブリア紀のほかの生物が硬い組織を身につけるようになったのと同じ理由、つまり防御手段としてだった。
鎧をまとった魚類の進化は、捕食性のオウムガイや外洋性の巨大なサソリである広翼類(ウミサソリ)の出現と同時期だった。
いちばん恐ろしげな広翼類は、デボン紀に生息していたジェケロプテルスだろう。
大きなギョロ目と巨大なハサミを持つ悪夢のような生物で、二・五メートルほどまで成長し、魚を食べていたらしい。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)