2020年に「デジタルサービス会社への変革」を宣言したリコーは、その大胆な変革の推進が評価され、経済産業省と東京証券取引所によって「DX銘柄2022」に選定された。米GE(ゼネラル・エレクトリック)や中国アリババグループの日本法人で経営の指揮を執った後、リコーのCDIOとしてデジタル戦略を統括する田中豊人氏に、DXの現在地と目指すゴールを聞いた。
OAメーカーから
デジタルサービスの会社へ
編集部(以下青文字):リコーは、2025年の中期経営目標として「デジタルサービス会社への変革」を掲げています。この目標に基づき、どのようなデジタル戦略を立案、実行しているのでしょうか。
コーポレート上席執行役員 CDIO(Chief Digital Innovation Officer)
田中豊人
TOYOHITO TANAKAコニカミノルタホールディングスでカメラ・フォト事業の構造改革・事業撤退、全社新規事業責任者等に従事後、日本GE(ゼネラル・エレクトリック)専務執行役員、アリババ(日本法人)代表執行役員副社長、アント フィナンシャル ジャパン代表執行役員COOなどを歴任。2020年4月リコーに入社。全社デジタル戦略の責任者であるCDIOとして、OAメーカーからデジタルサービス会社への変革を推進している。
田中(以下略):リコーがDXで目指しているものは何かというと、「持続可能な社会づくり」と「〝はたらく〟に歓びを」です。
当社の創業者である市村清は1946年、「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という三愛精神を提唱しました。リコーには、そのDNAが脈々と受け継がれています。
「人を愛し 国を愛し」というのは、現代で言えば人と社会を愛すと言い換えることができ、SDGsに通じます。ですから、当社では「持続可能な社会づくり」を目指して、事業成長とESGの同軸経営の実践に取り組んでいます。
たとえば、国内販売会社であるリコージャパンには、「SDGsキーパーソン」制度があります。全国に500人以上のキーパーソンがおり、リコーグループ内でSDGs経営の浸透・啓発を図ったり、お客様への提案にSDGsの観点を盛り込んだりしています。お客様から要望があれば、SDGsに関するリコーのノウハウをご紹介しています。こうした活動の成果として、グループ社員に自身の業務とSDGsのつながりについて調査したところ、98%近い社員が「つながっていると思う」と回答しました。
また、世界の代表的なESG指標であるS&Pダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)で最高ランクの「ワールドインデックス」に、2021年まで2年連続で選ばれるなど、外部からも高い評価をいただいています。
「持続可能な社会づくり」に加えて、もう一つ大事にしているのが「〝はたらく〟に歓びを」で、これはリコーの2036年ビジョンでもあります。三愛精神の「勤めを愛す」という言葉にあるように、私どもは創業以来ずっと働く人たちをお客様にしてきました。
いまでは一般用語になったOA(オフィスオートメーション)という言葉を1977年に最初に提唱したのは当社です。これには、働く人を単純作業から解放し、充足感や達成感、自己実現につながる変革をお届けしたいという思いが込められています。
この概念をさらに発展させたのが「〝はたらく〟に歓びを」で、デジタルによって働く人や場所、ワークフローが自在につながり、人間らしい創造力が発揮される未来を実現させるのが当社のビジョンです。
つまり、その2つのビジョンを達成するために、リコーのデジタル戦略があると。
ビジョンをパーパスと言い換えれば、よりわかりやすいかもしれません。DXとはデジタル技術とデータを活用した企業変革であり、企業としての明確なパーパスがあり、それが組織に浸透していないと大きな変革を成し遂げることは難しい。
このため、DXに着手する前にパーパスの再定義から始める企業が少なくありませんが、リコーには創業以来の三愛精神があり、「持続可能な社会づくり」と「〝はたらく〟に歓びを」がパーパスとして社員の間で共有されています。
私はDXの責任者として2020年にリコーに入社しましたが、その点でデジタル戦略を立てやすかったですし、活動を加速させやすかったと思っています。
デジタルサービス会社への変革という目標に沿ったデジタル戦略を立てるうえで、私が留意したのは、これまで培ってきた強みをさらに伸ばすことです。