投資はお百姓さんの「リスク分散」に学べ!不安定な経済環境に備えるリスク管理の実践法Photo:PIXTA

分散とリスク管理は投資の基本的な原則である。ただ、多くの要素を考慮して分散投資をしてリスクを管理することは難しい。自らが置かれている経済的環境を分析することで、分散とリスク管理を実践できる投資が可能になる。(レオス・キャピタルワークス株式会社未来事業室長 田中秀一郎)

農民は「お百姓さん」になることで
分散とリスク管理を実践している

 前回は、時間差のお話をしました。人間は、本能的に明日より今日の楽しみを優先しがちであること、でも将来を見越して行う迂回(うかい)生産を社会に組み込むことで人間の社会は発展してきたこと、この本能と理性の差を埋めるものは将来の成長への期待であることなどです。

 そうはいっても、将来がどうなるかは確定したものではありません。どう考えても前途洋々な商売をしていても、その前提条件が崩れてしまえば損失を被ることだってあるでしょう。

 社会全体としての期待値がプラスでも、個々人ベースに引き直したらマイナスの人も居るでしょうし、社会全体としても何かの異変で実際の成長力がマイナスに落ち込むことだってあり得ます。

 そこで、人間は将来の不確実性をコントロールして、富裕性も確保できるような方法がないかといろいろ思案してきました。

 例えば、備蓄。農耕社会では天候不順により作物が満足に育たない年もあるので、この先数年分を穀物のような長持ちする方法で備蓄して将来に備えます。この備蓄量が多いほど、将来の天候リスクに対する耐性が高まります。

 不確実性の回避策として、作物の複線化なども挙げられるでしょう。

 食料の生産と、商品作物としての生産を分け、食料も穀物だけではなく野菜も育て、養鶏も行い、たまには山に入って狩りも行って、畑仕事のできない冬場は街で売れるわら細工や竹細工を作るなどの多角化戦略を行うことで、季節のサイクルごとに生産を最適化し、気候変動に備え、食料の他に金銭も貯蓄することができるようになります。

 金銭の蓄えがあると、市場で買い物をすることで多少の物資不足は乗り切ることができるようになり、農村で入手が難しい例えば塩なども買えるようになります。かつて一つの作物しか育てていなかった農民は、このような多角経営を百種類(姓)も行うことで、「お百姓さん」にレベルアップしたわけです。(編集部注:古代では百姓という言葉は農民に限らず、貴族などを除いた姓を持つ一般的な国民の意味で使われていたという説が主流)

 ここには既にポートフォリオの分散とリスク管理という近代投資理論に近い発想があります。

 では、通常のビジネスパーソンはどうすれば、お百姓さんと同様の分散とリスク管理を投資において実践できるのでしょうか。次ページからひもといていきます。