ロサンゼルス五輪の成功の裏にある電通の機動力

 折しも、その頃、前述のアディダスのダスラー氏と電通の服部氏はスポーツビジネス戦略において共鳴しあい国際的に展開する会社・ISLを設立し、当時のIOC会長にオリンピックマーケティングを提案した。オリンピックに関する権利をIOCが統括し、グローバルに展開するというものだ。

 もしオリンピックマーケティングが成功し、五輪開催経費を全て賄うことができれば、オリンピック理念の実現に貢献することができる――。

 そんな最中に開催されたのが、1984年のロサンゼルス五輪だ。

「公的資金を一切使わず民間資金だけで開催する」と宣言した大会の、ロサンゼルス五輪組織委会長はピーター・ユベロス氏。彼はテレビなどの放送権料、スポンサー協賛金、ライセンシングなどを駆使して収益を上げ、開催費を賄うだけでなく、当時のレートで約500億円の黒字を残す成功を収めた。

 この成功を支えたのが服部氏の熱意ある奮闘であり、彼が交渉して得たスポンサーシップ交渉権の独占代理店「電通」による、たゆまぬ機動力であった。

 1985年、IOCはISLとオリンピックのグローバル・マーケティングプログラム「The Olympic Partner」に関する独占代理店契約を締結した。IOCは「五輪」の商業利用を決心するのである。世界的な規模の企業にそのシンボルの独占的使用を許可する代わりに、スポンサー料を得ることとなった。

東京2020でオリンピックマーケティングは誰がやる

 東京2020でオリンピックマーケティングは、どのように展開したのか?

 まず、2014年1月にJOCと東京都が東京2020の組織委を設立すると、当時の安倍政権に近い森喜朗元首相が会長になるなど政治色の濃い人事となり、理事会は名誉職的なステータスとなった。

 そして組織委は、4月にマーケティングの専任代理店として電通を指名。組織委事務局に電通からスタッフが出向し、事実上、スポンサーシップに関することを全て電通が仕切ることになる。組織委は「名誉職」なので、マーケティングに関しては、電通に丸投げしているのと同じ状況となった。

 本来であれば、組織委事務局にマーケティング本部ができ、そこに有能な人材を置き、業務を遂行する。JOCからマーケティング担当を出向させ管理運営を統括することもできる。スポンサー募集も選定も、組織委の責任で実施するのが原則だからだ。ロンドン2012もリオ2016もそうであった。

 スポンサー契約は、代理店に依頼するのが当たり前とはならないのだ。

 もし、東京2020で本来の形が築けていれば、高橋元理事のように仲介者が登場する隙間はなかったはずだろう。