欧米主要国ほどではないが、日本国民も物価高に苦しんでいる。しかし、物価の番人たる日本銀行は、安定的な2%インフレ目標の達成が見通せないとして異次元緩和を続ける。黒田東彦日本銀行総裁の最後の賭けともいえるこの金融政策が、財政インフレの引き金を引くことはないのか、検証した。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
異次元緩和継続の結果
進む大幅な円安
グローバルインフレで先進各国の国民が苦境に追い込まれている。コロナ禍による供給制約やペントアップ(繰り越し)需要、グリーンインフレ、ウクライナ危機だけが原因ではない。
コロナ禍への対応として行った大規模な財政・金融政策も大きな原因であり、自ら招いたことともいえる。単なる需要ショックではなく、財務当局への信認低下を背景とした財政インフレの香りも漂う。
日本も含め、物価高の痛みを拡張財政で吸収しようとする国が増えてきたが、そうした政策は、需要を高めると同時に、財政懸念を強めることで、さらなるインフレ期待の高まりにつながる恐れがある。財政インフレの要素が大きいのなら、中央銀行が利上げをしても、景気が悪くなるだけで、財政健全化に転じるまで、インフレが鎮静化しない。
財政への信認低下で、長期金利が上昇すれば、利払い費が膨らみ、財政の持続可能性を損なうネガティブ・フィードバック・ループに陥る懸念もある。現に、財政インフレを疑われ始めた英国の金融市場は混乱に陥った。
今のところ日本では、3%程度のインフレ上昇にとどまり、グローバルインフレという大津波に何とか巻き込まれずに済んでいる。
もちろん、資源高や円安の影響で、日本にとっては高いインフレに直面しているとはいえ、欧米のような2桁近いインフレは避けられてきた。それは、コロナ禍からの経済再開の遅れや需要回復の鈍さも一因だが、ゼロインフレのノルム(社会規範)が強いことのおかげともいえる。
しかし、この「物価安定」にチャレンジする組織が存在する。それは物価の番人であるはずの日本銀行だ。安定的な2%インフレ目標の達成が見通せないとして、異次元緩和を続け、その結果、大幅な円安が進んでいる。
先進各国の中央銀行がインフレ期待の抑制にてこずる中、インフレ期待を高めようとする日銀の試みは、2%インフレの達成を通り越し、取り返しのつかない事態を日本経済にもたらすリスクはないのか。次ページから検証していく。