自分より上だなと思った経営者とは?
永守後の日本電産はどうなる?

永守氏 ない。なんのコンプレックスもないよ。

――経営学や理論は信用しない。

 永守氏 全然せえへん。情熱熱意さえあればなんでもできる。落ちこぼれも出ない。うちだけじゃない。10年以上赤字の会社を買収し、でもぼくは、役員を首にしないでそのままやらす。それでも全社業績が上がった。意識が上がったからです。

――赤字会社の社員は、モチベーションが下がっているでしょう。どう変えるんですか。

永守氏 挫折しているからいいんです。ぼくの言うことを聞こうとする。

――永守さんは、社員の評価がきついでしょうね。

 永守氏 ぼろかす言いますよ。すぐ「お前なんかいらん、辞めろ、死ね」と言う。ミスを見逃したらダメです。途端に緊張感がなくなる。ほめて育てるなんて、ぼくにはできん。

 ただ、深刻な問題では絶対に叱りません。「そうか、大丈夫だ、任せておけ」、そう安心させます。経営問題は自分が解決しないとダメです。

――人を切る、または入れ代える、という手法はあまり使わない。

永守氏 買収した会社のダメな社長や役員でも、できる限り生かす方法を考えるね。切る、代えるは経営者の逃避。うまくいく保証などない。それなら、使った方がいい。逃げ出さないうちは(笑)。ダメなやつは必ず逃げよる。逃げない限り使い続ければ、絶対に意識は変わっていく。

――大企業でも、再建できる自身はありますか。

永守氏 同じです。規模は関係ない。100人の会社も3000人の会社も、意識改革に使う時間、労力は同じ。それなら、大きい会社を手がけた方がいい。むしろ、小さな会社の方がむずかしい。キーマン1人が辞めたら、代替が効かない。組織に穴が空いてしまう。でも、大きな会社はいくらでも代わりがいる。

 日産自動車系の会社も買収しましたが、そこの連中に言わせれば、ぼくとゴーンさんのやり方はまったく同じ。コストを下げ、意識を変え、そのためにはトップがしゃにむに働く。どこの企業再建でも同じや。

 再建ほど、満足のできるものはないわね。社員からぼろかすの投書もらって、それが少しずつ変わって、最後には本当に感謝される。やっててよかった、楽しい、心底そう思う。

――自分より上だなと思った経営者にあったことないでしょう。

永守氏 そんなことない。同じ京都でも、ローム社長の佐藤研一郎氏(当時。20年に死去)や京セラの稲盛和夫名誉会長(当時。今年8に死去)。短期間であそこまでの会社を育てたのは尊敬に値します。オムロン創業者の立石一真さんは、人間的にすばらしいかただった。

――みな、京都の“オーナーガバナンス”の体現者たちですね。

永守氏 責任感の深さ、執念の度合いがそこらの経営者とは100万倍違う。命賭けてるから。家族からもあきれられ、執念が運を引き寄せる。

――運、ですか。

永守氏 死力を尽くしますよ。必死に考えもする。でも、努力だけで問題を解決できるわけじゃない。

 円高で80円になったことがあったでしょう。前途を真っ暗に思ったら、次の手はない。逆に、円高は海外投資のチャンスと思わないかん。だが、もっと円高になるかもしれないと考えたら、決められん。

 ぼくは、ここで反転すると決めつけて、80円の時に投資に踏み切った。そうしたら、本当に反転した。

――決断が運を引き寄せた、と。

永守氏 努力したあと、最後は運。

――永守後の日本電産は、どうなってしまうんですか。