永守氏 「あんたがいなくなるリスクを考えたら投資できへん」と言う投資家もおるわね。でも、そんなに弱い会社じゃない。ミニ永守は結構おる。権限委譲もしてる。
売上高1兆円までは、ぼくがやります。今は2810億円ですが、計画では2010年ごろの達成予定。目標値数値はしっかりと持たないかん。そのためには、まず健康管理。
――どんな健康管理ですか。
永守氏 仕事以外、しないことです。ゴルフでは、早く18ホール終わらへんかと思うし、夜の宴席もかなわん。銀行に頭下げるくらいやったら24時間働いていた方がええ。
仕事が一番、楽しい。健康の素なんです。ある人に、創業者は創業者らしい顔をしているものだと、言われたことがある。確かに、人生の苦悩が残るのは顔です。でも、ぼくは顔に苦悩の跡なんか残さないで、1兆円企業にしたい。闘病生活にあえぎ、反省しながらの人生はいやだ。楽しみながら、1兆円に到達したいんですよ。
(以上、『週刊ダイヤモンド』02年7月27日号の抜粋)
今から約20年前、当時57歳の永守氏の発言には、とにかく勢いがある。力がみなぎっている。
当時から、永守氏はハードワークを自認し365日働き詰めだった。その永守氏の生き様に最も影響力を与えていたのは、94歳でこの世を去った母親の存在だった。
「経営者になるために生まれてきた」「(買収した企業に関して)大企業でも再建できる」などと自信にあふれた発言を連発しながらも、その一方で、「死に対する恐怖はある」「その死が怖いから、365日会社に行って、ああ今日もまだある、と思っているわけや」と孤独な心境も明かしている。
永守氏が「会社を潰したら自殺するでしょう」と言ってのけるほど、人生を賭けて守ってきた日本電産。そのバトン後進に渡すことは並大抵のことではないのは想像にかたくない。
それでも、20年も前から抱えていた後継者問題がいまだに解消していない。また、当時は小気味よく響いていた“永守節”が、最近は社内や世間で受け入れられなくなっている。
そうした永守氏に対する求心力低下の原因を、「時代や外部環境の変化」に求めることは簡単だ。確かに「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」「知的ハードワーキング」という言葉に代表されるモーレツ労働は今の時代にはマッチしない。
だがそうした外部要因だけではなく、永守氏自身の「時代を先読みする力」「世間の反応を先回りできる“絶妙な言葉選び”の能力」に衰えを見えているのかもしれない。