個人富裕層や経営者向けの節税策として人気があった、建設工事用の足場やコインランドリーを使った節税策。資産の一括償却を利用したこれらの節税策に国税が網をかけ始めた。だが、そもそもこれらの全額損金算入を利用した節税策は本質的には節税になっていない。それどころかやり方を間違えば、かえって税金が増える可能性すらあるのだ。特集『円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術』(全16回)の#6では、その危ういカラクリの全貌を解明する。(税理士 吉澤 大)
富裕層を惑わす「全額損金」で節税のわな
足場レンタル、コインランドリーのリスクとは?
令和4年度の税制改正により、ある人気の節税対策が封じ込められた。「足場レンタル節税」と呼ばれるものである。
足場レンタル節税のスキームはこうだ。
一つ当たり10万円未満の減価償却資産(少額減価償却資産)については、支出時に全額損金算入が認められている。そこで、足場やドローン、LEDなどの一つ当たりの単価が少額な商材を大量に購入し、購入時に一括して必要経費に算入、支出時に税負担を軽減した上で、それらをレンタルすることでその投下した資金を回収する――というものだ。
設備投資に要した価額は、いったん固定資産とされた上で、その法定耐用年数にわたって案分され、必要経費に算入される。この手続きを「減価償却」、生じる金額を「減価償却費」と呼んでいる。その資産が少額減価償却資産であれば、支出時に全額の損金算入が可能なのだから、これらの節税商材を好きなだけ買うことで、利益を自在に圧縮できることになる。
これが令和4年度の税制改正により、少額減価償却資産であっても、主な事業とはならない貸し付け用途のものは、支出時全額損金算入の対象から除外されたのだ。
実はこのスキームには、そもそも改正前から節税効果はない。レンタル料を受け取った分については、利益として課税されるので、仮に支出額と同じ額のレンタル料を後日もらったとすれば、トータルの税額はプラスマイナスゼロとなるからだ。
では、なぜ国は、節税効果がないものを規制したのか。それは、国が単年度の予算により運営されているからである。納税を遅らせようという行為は、国として容認できないからだ。
この足場レンタル節税は規制された。しかし「全額損金」が富裕層や中小企業社長を惑わすキーワードである以上、「足場は規制されたが、これなら大丈夫」と、支出時に一括損金算入できることをうたい文句にする節税商品が尽きることはない。例えば、コインランドリーがそうだ。
なぜコインランドリーが節税商品として人気なのか、そしてなぜこのスキームに危うさがあるのか。次ページからはそのカラクリとリスクを詳細に解説していこう。実はやり方を間違えると、税の負担が増える可能性すらあるのだ。