今年3月、国税庁が再び節税保険に大なたを振るった。ターゲットは名義変更プランで、その最前線にいたのがマニュライフ生命保険だ。もはや万事休すかと思われたが、水面下で新たな節税保険の開発に着手していることが分かった。特集『保険の裏 営業の闇』(全21回)の#1では、マニュライフ生命の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
名義変更プランの不正な募集文書
大量発覚で節税保険の一時販売停止へ
2021年5月7日昼ごろ、外資系生命保険会社のマニュライフ生命保険の社内にどよめきが起こった。専務執行役員チーフ・ディストリビューション・オフィサー(CDO)の中原康雅氏から、一通の通知が届いたからだ。
「逓増定期保険を一時販売停止にします」――。
対象となるのは、名義変更プラン用の低解約返戻金型の逓増定期保険(社内用語でTTT)と、いわゆる低解約返戻金型のプラチナ型の節税保険(社内用語でNCT)。販売停止の理由は、社内で不正な募集文書が大量に見つかったからだ。
「社内で不正な募集文書が見つかりました」と、緊急オンライン会議で中原氏が発言したのは、4月27日の朝。それから10日あまりで、不正な募集文書の対象であった2つの保険商品が一時販売停止に追い込まれる事態となった。
もっとも、今年2月に商品改定して発売した利益の繰り延べを意識した新型の逓増定期保険(社内用語でSFIT)は、販売停止の対象外。代理店向けの説明資料には「未経過保険料+事務手数料」を加えた期首返戻率なる文言を用いて「実質返戻率」の高さをアピールしていたが、今回は難を逃れた形だ。
それはさておき、不正な募集文書とは、節税保険の中でもキワモノとされる「名義変更プラン」の提案書だ。見つかった提案書は、実に80件を超えたという。
税の抜け道とされる名義変更プラン。19年2月に国税庁が中小企業の利益の繰り延べを狙ったバレンタインショック、いわゆるプラチナ型の節税保険に大なたを振るって以降、マニュライフは名変プランに傾倒していったとみられる。「新契約の5割以上が名変プランだ」と複数のマニュライフ関係者が明かすように、名変プランのフロントランナーとして知られるほどだ。
ここまで節税保険に傾倒した理由は#3『マニュライフ生命のあきれた経営実態、アジア統括の過干渉・お手盛り希望退職・曼荼羅メール…実録・マニュライフ内部崩壊(下)』に譲るが、各営業部門に対して常に詳細な報告を求める中原氏をはじめ、こうした実態を経営陣が知らないわけがないだろう。もっとも、口が裂けても推進していたと言うわけにはいかないだろうが、今回見つかった大量の不正な募集文書に加え、相次いで投入された商品を見ると、会社を挙げて節税保険に傾倒していった様が見て取れる。
マニュライフは、名変プラン用の低解約返戻金型逓増定期保険(TTT)の一本足打法では、税制が変わった際にトップラインが稼げなくなってしまうため、今年2月に改定した新型の逓増定期保険(SFIT)を投入した。後者は中小企業の利益の繰り延べを狙った節税保険で、解約返戻金の立ち上がりが早いのに加え、TTTに比べて返戻率のピーク期間が少し長いのが特徴だ。
これだけではない。国税庁や金融庁をあざ笑うかのように、さらなる節税保険である生存給付金付き定期保険を開発しようとしているのだ。
以下、マニュライフの不正な募集文書の中身に加え、新たな節税商品の開発案について詳述しよう。