「円安継続」がもっともらしいが
長期と短期では見方が異なる
今年(2022年)、115円ちょうど近辺で始まったドル円は、10月21日に1990年8月以来となる152円ちょうど近辺と、年初から32%も上昇した。
ドル円は、東日本大震災後の2011年10月に過去最低となる75円台前半を記録しており、そこから見ると2倍(100%)以上の水準に達したことになる。
今年のドル円急上昇の主要因として、日米金利差の拡大が指摘されている。米連邦準備制度理事会(FRB)が急騰するインフレを抑えるべく利上げを続ける一方、日本銀行は大規模な金融緩和策を維持。結果として、日米金利差は拡大し、ドル買い・円売りの動きが促されている。
日本では、日米金利差の拡大に加え、日本経済のファンダメンタルズの脆弱(ぜいじゃく)さが円売りを促しているとの見方が流布している。かつて世界一の貿易黒字を誇った日本は、いまでは貿易赤字国に転落し、2022年上半期(4~9月期)の貿易赤字は約11兆円と、比較可能な1979年以降で最大を記録した。
また日本では30年以上も前から、財政赤字拡大を懸念する見方が、いわゆる有識者を中心に指摘されてきた。日本の国債発行残高は2005年度に500兆円を超え、財政状態は危機的と言われたが、17年度の今年度(2022年度)は、1000兆円の大台に乗る見込みだ。マクロ経済学では、財政赤字が大きい国の通貨は他国通貨より売られやすいとされている。
一方で、日本の低成長ぶりはよく指摘されるところだ。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、日本のGDP成長率は昨年(2021年)、今年(2022年)ともに1.7%と2%以下の見込み。今年は米国、中国、ユーロ圏も低成長を余儀なくされていることから、日本の低成長ぶりが目立っていないのかもしれないが、こうした国・地域は昨年、5%以上の成長率を記録している。
低成長の国である日本の通貨(円)の需要は低いのが自然であり、円安の進展は「日本経済の低迷を反映したもの」という見方が国内ではもっともらしい意見とみなす風潮にある。
ところで日本には、自身の短所や欠点を取り上げ、自分をおとしめることで笑いを誘う「自虐」という話術がある。日本経済のファンダメンタルズの弱さを取り上げ、円安は止められないと諦め顔で語る日本人の様子は、いわば自虐という話術を身に付けた証しかもしれない。
日米金利差の拡大に加え、日本のファンダメンタルズの脆弱さを理由に、「今後も円売りの動きは継続し、ひいてはドル円の上昇も続く」という見方は、自虐の話術を使わなくても、もっともらしく映るかもしれない。
しかし、為替に限らず相場の動きは、長期の見方と短期の見方が必ずしも一致するわけではない。そこで次ページ以降、チャート上のテクニカル分析などに基づき、ドル円が今後、時間軸によって異なる方向性をたどる可能性があることを解説していく。