本当に役立つ
ビジネス書の選び方
それでは、本当に身に付く教養を学んでいくには、どのような教材を選べば良いのだろうか。
「何をもって『本当に身に付く教養』とするのかは人それぞれの考え方があるとは思いますが、先ほど述べたようなコミュニケーション力ではなく、たとえ1つの分野であってもそれをしっかり咀嚼することで自分なりの原理原則にたどり着いていることを『教養が身に付いている』と言っていいのではないかと思います。そのための第一歩としては、手軽さやわかりやすさと情報の正確性が両立していて、かつ『入門の先に広がる世界の深さ』を垣間見せてくれるコンテンツを選び取ることが重要ではないでしょうか。例えば歴史を学ぶなら、インフルエンサーが解説する動画よりも、専門家がしっかり監修している子ども向けの学習マンガのほうが、楽しみながらその深淵に触れられるのではないかと思います。名のあるインフルエンサーが発信しているかどうかより、その分野における有識者の関与の有無を気にして、かつ『これだけでOK!』といった煽りとセットになったコンテンツに対して慎重な態度をとるだけで、適切な情報を見つけられる確率はぐっと高まるのではないでしょうか。一方で、そういったコンテンツを生み出す資質を持った有識者たちも、過激な発言をするインフルエンサーに対して冷たい視線を投げかけながら、アカデミズムや組織の中に閉じているだけでなく、今のメディア環境に合わせた発信のあり方を考えることもより必要になってくるはずです」
ビジネス書から学びを得ようという人も多いが、大量のビジネス書から良書を選ぶことは難しい。ビジネスパーソンでもあるレジー氏も、多くのビジネス書を読んできたが、その中で培った見極めの基準をこう述べる。
「少し遠回りに感じられるかもしれませんが、物事を捉えるための枠組みについて示した本を選ぶことが大事ではないかと思います。そういったタイプの本は、ビジネスへの理解を通じて『考えるとは何か』というテーマにまで接近している骨太なものも多いです。中には通読するのに時間がかかるものもあるとは思いますが、それを関心のあるところから1ページずつでも地道に読むことは、むしろライトな本を乱読するより大事な意味を持つように思います。その対極にあるのが、『ビジネス書』と言いつつ著者の人生論になっているようなものですね。ドラマチックな内容のものもあるので一時的にはモチベーションアップにつながるかもしれませんが、エナジードリンクのような効果しか得られないと思います」
レジー氏によれば安宅和人著『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版)や楠木建著『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)は、いつ読んでも新しい発見があり、他のビジネス書とは一線を画すものだという。
最後にレジー氏は、ファスト教養に対し、改めて問題提起と提言を述べる。
「ファスト教養に通底する自己責任やコスパといった考えは、徹底的に無駄を省いていこうとするものです。しかし、自分だけの狭い判断基準で無駄か無駄ではないかを決めつけてしまう狭量な人に、ビジネスの成功がもたらされるでしょうか。むしろ、出来合いの判断基準に頼らず、一見無駄に思えるようなことにも興味を持って真摯(しんし)に学ぼうとする人こそ、ビジネスの世界でイノベーションを生み出していくのではないかと思います」
即物的な考えではなく、無駄方便という精神を持ちながら教養に接していくべきだろう。