韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)でハロウィーンのために集まった群衆が転倒し、158人が死亡するという大惨事が起こってから2週間が過ぎた。いまだ深い悲しみに包まれている韓国であるが、その悲しみの裏で、度重なる安全を軽視した人災に対する怒りと失望感も広がっている。日本でもこのニュースは衝撃をもって伝えられ、「どこにでも起こり得る事故だ」という声も聞かれる。しかし、韓国でこれだけの人災とも言うべき大きな事故が多発する背景には、安全対策の見直しや反省だけでは改善できない韓国の事情もありそうである。(韓国在住ライター 田中美蘭)

第二、第三の梨泰院事故を引き起こしそうな予兆は至るところに

釜山の繁華街、西面の路地裏釜山の繁華街、西面の路地裏。看板がはみ出し、段ボール箱が道路上に置かれている(筆者撮影)

 日本でも報道されているが、今回の事故現場となった梨泰院の路地は、緩やかな傾斜のある狭い道の両側に店舗が軒を連ねている。事故当日はそこに身動きを取れない程に群衆が密集していたこと、また、再三指摘されている通り、警察の警備が不十分であったことを考えると、さまざまな不運や要因が重なって起こってしまった事故だと言えるだろう。

 しかし、こうした事故は梨泰院に限ったことではなく、韓国の繁華街であればどこでも起こる可能性を秘めている。韓国の繁華街は、大通りから一本裏に入れば狭い路地がひしめき合っていることが多い。その路地のほとんどは一方通行で袋小路のようになっており、「コルモク」と呼ばれている。韓国の繁華街の多くは古くから栄えている地域であり、こうした入り組んだ道がそのままで今も残されていることが多いのである。

 写真のこの路地は第二の都市・釜山の西面(ソミョン)という繁華街にある。見ての通り狭い道の両端には、店が看板やディスプレーを出していたり、廃棄用の段ボール箱が置かれていたりして乱雑な様子が分かるかと思う。その上、実際に歩くと度々、歩行者の横をかなりのスピードですり抜けて行くオートバイや車もあり、危険も感じる。