9月6日に就任したばかりのイギリスのリズ・トラス前首相の在任期間はわずか50日だった。トラス前首相が辞任するハメとなったのは、公約で掲げていた大規模減税などを実施しようとしたところポンドが暴落し、さまざまな政策を撤回する事態に追い込まれたからだ。ポンド暴落はどれほど悪いことなのだろうか。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
かつての日本のような
首相短期交代が続くイギリス
2022年9月6日に就任したばかりのリズ・トラス前首相が10月25日辞任、わずか50日の首相だった。同日、就任した後任のリシ・スナク首相はインド系イギリス人の42歳、15年に下院議員に選出されてからわずか7年で首相に上り詰めた。イギリス保守党の多様性とダイナミズムに驚かされるが、かつて日本でも短命政権が続いたように、イギリスに首相短期交代のJapanification(日本化)が起きているという説もある。
イギリスのトラス前首相が辞任するハメとなったのは、公約で掲げていた大規模減税などを実施しようとしたところ金利が急騰、国債が下落、ポンドが暴落し、大規模減税政策、家庭などへの光熱費の補助などの多くを撤回する事態に追い込まれたからだ。
アメリカの例を考えれば、金利の上昇はポンドを引き上げるはずだが、逆のことが起きている。しかも、トラス前首相の減税策は、年450億ポンド(約7.5兆円。イギリスのGDPの1.8%)にすぎない。この程度のことで、なぜ市場が大騒ぎになったのだろうか。日本のコロナ対策は、2年間で100兆円余計に財政支出を膨らませた。23年度のためにも29兆円の追加予算を組むという。しかし、市場の混乱というほどのことは起きていない。
イギリスの為替下落について、日々の為替や金利の動きを細かくフォローし、市場参加者の状況や思惑を分析し、かつ問題を理論的に整理するのは私の手に余るので、これについては市場のエコノミストの分析を待ちたいと思う。
代わりに1992年、ポンドが15%程度下落した時のことについて述べたい。伝説の投機家、ジョージ・ソロスがイギリス政府にポンド売りを仕掛けて勝った時のことである。今回、どれだけポンドが下落したかは、直前ポンドが上昇していたりしたので判断が難しいが、上昇前と比べると10%程度の下落だと思われる。