今年の春からIT業界やSNS界隈の話題を賑わしてきた、イーロン・マスク氏によるTwitter買収。途中、Twitter側が受け入れた提案をマスク氏が一方的に撤回するなどの紆余曲折があったものの、先ごろ総買収金額440億ドル(約6兆1600億円)で決着した。その直後にマスク氏が3700人に及ぶリストラを敢行し、残った社員のリモート勤務を原則撤廃するなど、強権的ともいえる組織&意識改革に乗り出したことが、新たな物議をかもしている。果たして、今回の買収劇は、Twitterにとって飛躍のきっかけとなるのか。あるいは、倒産に至る第一歩なのだろうか? (テクノロジーライター 大谷和利)

※記事中の日本円換算は、1ドル=140円で計算

知名度とユーザー数規模の割に、収益性が低いTwitter

 Twitterに限らず、企業が買収されるときには、当然ながら相応の事情がある。一般に、売り手側企業の理由としては、不振な事業の継続や、事業の選択と集中による業績の維持・拡大、創業者利益の確保などが挙げられる。また、買い手側企業の理由には、事業の多角化、スケールメリットによるコストダウン、同一業界内におけるシェアの拡大、知的財産・技術・人材の獲得などが考えられる。

イーロン・マスク氏イーロン・マスク氏 Photo by Steve Jurvetson(Creative Commons Attribution 2.0 Generic)

 ただし、今回の買収はイーロン・マスク氏個人によるものなので、事業の多角化や拡大を図ろうとする一般的な企業の論理とは異なる。氏によれば、買収の理由は「非上場化して、言論の自由を実現する」ということだが、後述するように、企業である以上は収益性を上げて持続可能な事業にすることが大前提だ。

 一方で、買収される側のTwitterには、明らかなビジネス上の問題点があった。Twitterは、広告収入のほか、検索エンジンサイトに対してツイートのリアルタイムインデックス化を認める契約によって売り上げを立てている。そして、経営陣は過去に「自社のビジネスが有益なサービスであり、収入を得ることは難しくない」という趣旨のことを繰り返し発言していたにもかかわらず、実際に行ったビジネス拡大の施策は結果を伴わなかった。

 Twitterの財務リポートによれば、2022年Q2時点で世界の収益可能な日間アクティブユーザー数は2億3780万人(増加傾向にあるが、新興のTikTokより少ないことも事実)。知名度の高さやユーザー数に対して収益性が低く、マスク氏のツイートによれば1日あたり400万ドル(約5億6000万円)の赤字を出しているとのことだ。