AIとのコラボレーションを
クリエイターのために志向
イベントでは「共同作業」「コラボレーション」という分野に、今まで以上に「AI」が入り込んできているという印象を受けました。
アドビデジタルメディア事業社長のデビット・ワドワニ氏は基調講演で、「AIは人間のクリエイティビティを拡張するか進化させるものであって、置き換えるものではない」と語り、会場から拍手を受けていました。また、連載の前回記事『テキストから画像を生成する「画像生成AI」、なぜ話題で何が課題なのか』で紹介した画像生成AIのようなジェネレーティブAI(生成AI)についても、「クリエイターのために動くようにさせたい」と話しています。
Adobe MAX オープニングキーノート動画より
画像生成AIはテキストを入力すると画像を生成します。イベント現地で私も意見交換したジャーナリストの西田宗千佳さんが、アドビCPO(最高プロダクト責任者)のスコット・ベルスキー氏にインタビューした記事がわかりやすいのですが、ベルスキー氏が強調するのは「AIが生成した画像は最終アウトプットだけだ」ということです。
通常、デザイナーが写真の加工をしたりイラストを描いたりする場合は、レイヤーを重ねて加工を加え、作品を作っていきます。ですから、どこかを手直ししたいと思ったらレイヤーに手を施せばよいのです。ところが生成AIは、クリエイターが頭の中で組み上げる思考を一切無視して、最終形だけをポンと作ってしまう。つまり、クリエイターがそれをさらに加工するのが難しいのです。
現時点の生成AIは、まだ試行錯誤中の実験的なもので、アドビがいう「生成AIがクリエイターのためになる」という仕組みにはなっていません。アドビのいう「クリエイターのためのAI」を実現するなら、今クリエイターが使っているツールの中に溶け込むような形で、その機能を持ち込むことになるはずです。
フォトショップの写真加工でいえば、オブジェクトを除去したいとか、雪景色にしたいとか、既存の写真に対して手を加えていく、もしくは2つの作品をうまく統合する、ということには現にAIが活用されています。これからは、そこに生成AIがゼロから作り上げたものをうまく混ぜていく、または生成AIが作ったものをベースにクリエイターが何かを作っていく、ということを志向していく形になるのではないでしょうか。