人を置き換えるのではなく
人をサポートする存在としてのAI

 正直、デザインを機械が作っても、優秀なデザイナーが作っても、我々のような最終的な消費者にとっては、あまり関係がありません。たとえばインターネット上にはAIによるロゴメーカーのようなサービスもすでにありますが、クリエイターではない素人から見れば、ロゴがオンラインで5ドルぐらいでできるか、人が作るかの間には、もうあまり区別がないのです。

 しかしアドビはあくまでもクリエイターを支援する会社であり、支援するクリエイターがいいクリエイティブをつくることで世の中に貢献してきた会社です。やはりクリエイターとともに、価値あるクリエイティブの価値をさらに高めていこうとしている。その点で、AIに対するアドビの一連の姿勢は大変わかりやすく、アドビらしいアプローチだなと感じます。

 ここで1つ思い出したのが、自動運転というテクノロジーです。自動運転にもAIが関わっていて、人の仕事を置き換える可能性があるといわれています。日本のように少子化で労働人口が減少する社会では実際、人の仕事を置き換えるべきなのかもしれません。一方で、完全な「置き換え」ではなく「人をサポートする」というやり方もあるのではないかと思います。

 自動車業界には、自動運転だけではなく「先進運転支援システム(ADAS)」と呼ぶ仕組みもあります。これらの自動運転や先進運転支援システムも、人を完全に置き換えるものにならない限りは、ドライバーにとっては画像生成AIのように「あってもなくてもどちらでもいい存在」といえるでしょう。あくまでも「いかに自分が安心・安全に楽ができるか」、そして「運転を楽しみたいときには楽しめるか」が重要だと思うのです。

 このことを表しているのが、トヨタ自動車の「チームメイト」というコンセプトです。チームメイトは、人がつらいときにはクルマが運転を代わり、人が自分で運転したいときには自分で運転できる、そういった存在を表す概念です。今回、アドビはイベントで「AIはクリエイターにとってのコパイロット(副操縦士)である」と表現していました。これは、チームメイトと近い概念を示しているのではないかと感じます。

 今まで、生成AIはどうしても、クリエイター不在のまま、人と対立する構造で語られがちでした。しかし、トヨタのいうチームメイトやアドビのいうコパイロットのような存在と考えるアプローチは、とても面白い考え方だと思います。