子供は巣立ち、伴侶に先立たれ、細々と暮らしながら迎える老後。こうした「ひとり老後」には「孤独死」や「老後破産」といった暗いワードがつきまとう。そんななか、ひそかなロングセラーとなっているのが、ひとり老後を謳歌(おうか)する書籍『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』だ。同書が注目される理由を、すばる舎編集長の水沼三佳子さんに聞いた。(清談社 吉岡 暁)
自分の『城』で豊かに暮らす
単身高齢者たち
ひとり老後をめぐる書籍が、静かなブームとなっている。
『新築で入居しましたが、半世紀以上が過ぎ、部屋も古ぼけました。けれどもこの部屋でずっと暮らしてきて、自分の居心地の良いように整え、とても愛着があります。私にとって、どこよりも素敵な「城」なのです。認知症などで判断ができなくなったら、子どもたちに任せるしかありませんが、自分で決められるうちは施設に入らず、ここでひとり暮らしを続けたい。「この部屋で死ぬ」という気概は持って、できることは自分でやり、健康に気を使って』
これは『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)の一節である。老後2000万円問題や単身老人の孤独死が社会問題化するなかで、いま「ひとり老後」を謳歌する一般の人々のエッセーが注目されている。