企業にとっての「あるべき姿」は
働くひとの中にある

 ここまででお伝えしたように、きちんと機能するパーパスの策定には「社員の想い」が何より重要です。そしてその「社員の想い」を視覚化しながら進める手段には、デザインアプローチ(「デザイン」の観点からアプローチする方法)が適しています。

 デザインアプローチといっても、何から始めればいいのでしょうか? ここでは、具体的なプロセスを解説していきます。

(1)リサーチ
自社が抱える課題、自社の価値やありたい姿、会社への想いなどを、経営陣だけでなく、社員ひとりひとりからヒアリングします。

(2)可視化して議論を進める
自社のプロジェクト担当者とともに、自社の価値やありたい姿を、図解や言語化して整理していきます。同時に、開始時からこれらのプロジェクトの概要や、途中経過を、全社に共有していきます。時にはアンケートで社員に意見を聞く、ワークショップを通じて自社についてほかの社員と一緒に考え議論するといったプロセスの中で、さまざまな方法で全社をプロジェクトに巻き込んでいくことがポイントです。

(3)プロトタイプ作成
プロジェクトによっては、パーパスのプロトタイプ(試作品)を作成した後、社員からフィードバックをもらうこともあります。

(4)テスト
実際の利用シーンを想定したユーザーテストを実施するのも効果的です。

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 企業にとっての「あるべき姿」は、支援会社などから提示されるものではなく、その企業で働く「ひとの中」にあります。

 社員の想いを引き出し、自社にあったプロセスで見える化し、議論を重ねて磨き上げていくことで、その企業らしい、そして、社員一人一人が共感できるパーパスが完成します。

 以前、医療者と生活者の間をつなぐSaaSプロダクトの開発などを行っている(株)レイヤード(旧:メディアコンテンツファクトリー)さんで、上記のデザインアプローチに沿って、パーパス、ミッション、バリューの策定を私たちがサポートしました。その結果、社員の皆さんから「レイヤードらしさ」という言葉が出てくるようになったり、会議内において「会社として顧客に対してどのような価値をどのように提供するのか」といった視点で議論ができたりするようになってきた、とのお声をいただいています。

 パーパスというのは手段であり、パーパスの策定そのものが目的ではありません。パーパスやビジョン、ミッションなどのブランドコア策定を「自社の企業文化醸成のためのプロセスの一つ」と捉えて、社内の意識統一を図っていくのです。

最後に

 企業がパーパスを策定することは、即時効果につながるわけではありません。けれども今、「社員がどのような想いで働いているのか」「私たちの企業の活動はどう社会につながるのか」を重視する投資家も増えています。それだけではなく、採用の場面では、求職者が企業へ応募する際の判断の軸として、パーパスが重要視される傾向があります。

 その企業に適した、そして社員の想いに寄り添ったパーパスを策定すること。それは、社内の意思統一と主体性を向上させ、スピード感のある組織への成長につながるはずです。「伝わるパーパス」は、企業ビジネスの将来を支える重要な要素なのです。