メリッサ氏写真提供:Udemy

今なぜ、「リスキリング」だけではなく「リカルチャリング」(学習し続ける組織文化の醸成)が大切なのか――? 世界最大規模のオンライン学習プラットフォームを運営するUdemyのCLO(Chief Learning Officer)のメリッサ・ダイムラー氏は、人材マネジメントや組織開発の分野で20年以上のキャリアを有し、Adobe、Twitter、WeWorkで学習・組織・人材開発部門を設立してきた。「組織文化」をシステム思考という視点で捉え、リカルチャリングについて最も著名な思想的リーダーであり、実践者でもある。来日中の同氏に、企業内でどのようにリスキリングに取り組むべきか、学び直しを有効にするための組織のあり方とは、従業員が学習し続ける組織文化をいかに醸成すべきかなどについて聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光、文/奥田由意)

従業員の「学習」と企業の組織文化は
密接に結びついている

――あなたは、Adobe、Twitter、WeWorkにて、従業員の学習や組織開発を担当されてきました。その後、オンライン学習プラットフォームを運営するUdemyに、CLO(Chief Learning Officer)としてジョインした理由を教えてください。

メリッサ・ダイムラー(以下、ダイムラー) まず、CLOという職種について少し説明させてください。

 CLOは、日本ではあまりなじみがないと思いますが、欧米では15年くらいの歴史があります。マネジメント(経営)、リーダーシップ、全従業員のキャリア開発を含む、組織内の学習全般、そして、組織開発や、隣接領域である人材戦略にも関わります。たとえば、従業員エンゲージメント、従業員のパフォーマンス向上、後継者を育成する計画なども担当したりします。

 これまで所属した企業では、創立まもない時期の急成長に寄与してきました。ひとつの組織内の社員に影響を与えるだけでなく、地域社会や世界に影響を与えていく仕事でもあり、そのことにも魅力を感じていました。

 私がUdemyへと職を転じたのは、会社のビジョンが「知識とスキルで人生をもっと豊かに」、つまり、学習を通じて生活をより良くしていく、というものだったからです。

 学習を広く普及させる「学習の民主化」に寄与したり、人々が「learning(学び)」にアクセスする機会を広げたりすることは、私自身にとって重要な意味を持つもので、共感できることでした。

 さらにこの事業には、日本でもその伸びしろが大いにあるように、リスキリング、アップスキリングを通じて個人も企業も進化していくという、将来的なチャンスがある点も魅力的でした。

――ReCulturing(リカルチャリング/学習し続ける組織文化を醸成すること)を、Udemyの従業員や講師、顧客に実践していると聞きました。これについて教えてください。

ダイムラー 学習に関わる組織開発や人材開発と並んで、私のキャリアの中でもうひとつの大きなテーマは、「組織を総合的なシステムとして見ること」です。学習というのは、実はそのシステムの一部なのです。

 たとえば、従業員の研修というのがありますよね。この研修というのは、組織の事業活動などと別個なものではなく、いずれも大きなシステムの一環であると考えています。「学習」と組織文化は非常に密接に結びついています。このふたつを一体として考え、実装していくことは、事業そのものにも大きく寄与しますが、まだ多くの企業は、学習と組織文化を十分に関連づけることができていません。

 ですので、従業員の学習について考える前に、組織文化全体を吟味する必要があります。そうすることで、組織や事業全体に必要なスキルは何なのか、従業員は今どのようなスキルを伸ばすべきなのか、ということが見えてきます。従業員が学び続けるような組織文化の土壌が発展するだけでなく、事業そのものも進化するはずです。

 私たちが、クライアント企業と「学習戦略」に取り組む際、まずは、「事業戦略と組織文化についての戦略が明確であるか」を精査します。