「知らないがゆえの不安」を
大勢の人が抱えている

――池上さんの著書『よくわからないまま社会人になった人へ』シリーズがロングセラーになっているのも、「世の中のことを知らない不安」の多さゆえかもしれません。

 会社の基本を知らないから、会社選びや将来性や働き方に不安を覚える。経済のことをよく知らないから、不況だ円安だ増税だというニュースを聞くとすぐ不安になる。政治のことがどこか他人事だから、自分たちの声が届かないことに不満や不安を感じる。そんな「知らないがゆえの不安」を抱えた人たちが大勢いるんでしょう。

『よくわからないまま社会人になった人へ』シリーズは、そうした人たちに改めて世の中の基本的なことから知ってもらおうと思って書きました。社会に出る前の就活生だけでなく、すでに働いているベテラン社会人たちの学び直しや知識のアップデートにも役立ててほしいと思います。

「自分の武器」を知ることが
就職活動の始まりになる

――就活に臨む学生たちが、仕事選び前の準備としてやっておくべきことは何かありますか。

池上彰氏が就活生に指南「本当にやりがいのある会社の選び方」いけがみ・あきら/ジャーナリスト。
1950年生まれ。長野県出身。慶應義塾大学卒。73年NHK入局。報道記者、キャスターを歴任後フリーに。ニュース解説の第一人者として活躍。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
Photo by Masato Kato

 就活には自分が得意なことや好きなこと、人に誇れることといった「自分の武器を知る」というプロセスが欠かせません。

 私の話になりますが、本当はNHKで解説委員をやりたかったんですよ。だから『週刊こどもニュース』時代から「解説委員になりたい」と希望していました。

 ところがあるとき解説委員長に呼び止められ、面と向かって「お前は解説委員にはなれないからな」と言われたんです。「解説委員は何かの専門家でなきゃいけない。お前は何でも広く知っているけど専門分野がないだろ」と。そのときは「もうここに自分の未来はない」と落胆しました。

 でも同時に「難しそうなニュースを分かりやすく解説する」のも専門性になるんじゃないか。他に誰もやっていないニッチな分野だから、これで生きていけるんじゃないか。そう気付いたんです。つまり「自分の武器」を再認識できた。それでNHKを辞めてフリーになる決心をしたんですね。

 皆さんも就活の際は、自分にはどんな武器があるのか、自分の何が武器になるのかを自問してみてください。言うならば「自分の棚卸し」です。そうやって自分で自分の武器を知る。仕事選びや会社選びはそこから始まるんです。