2022年11月16日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「人の可能性を信じ『全員活躍』を実現する組織 ―有識者と考える人的資本経営― 」。その基調対談で、国内のウェルビーイングの第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)と、協和銀行(現・りそな銀行)やHOYAなど多くの企業で人事改革を実施してきた有沢正人氏(カゴメ常務執行役員CHO)が登壇。後編では、「社員の納得感を上げる評価の仕組み」や「経営陣、プロパー社員の意識の変え方」などについて議論が交わされた。(編集/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 大根田康介、撮影/堀哲平)
個人情報以外はできるだけ公開し
心理的安全性を担保する
前野隆司(以下、前野) 本当にカゴメさんはいろいろされていますね。システマティックで、しかも心がこもっていてユーモアもあり、素晴らしいお話でした。
有沢正人(以下、有沢) 私が入社したとき、会社として透明性を担保したいと、一番に思いました。企業の人事部というのは、どうしても情報を独り占めしたがります。しかし当社では、個人情報以外は基本的にKPI評価シートなどで公開することを徹底しています。それで心理的安全性を担保し、「こういう方に会社が向かっているんだ」「社長はこう考えているんだ」「役員はこう考えてるんだ」ということを全社員、部門を超えて共有することを目指したのです。
前野 なるほど。興味本位の質問ですが、社長の報酬はいくらですか?
有沢 有価証券報告書上では、社長のように代表権を持つ人、役員で報酬が1億円以上の人たちは基本的に公開しなければなりません。ただ、当社の社長は開示基準の1億円に満たなかった。しかし、当社は代表権を持つ人は1億円未満でも必ずすべて開示しています。
なぜかといえば、代表権を持つ人は会社を代表しているわけですから、ステークホルダーに対していくらもらっているのかを示す必要があると考えたからです。現在、代表権を持つのは社長だけで、報酬は21年12月期でBIP信託なども含め9200万円です。これは開示しています。
前野 本当にクリアに開示する文化なのですね。やる気のある人は「見える化」することでもっとやる気を出すと思いますが、一方でもっとやる気を出したり、チャレンジしたりすべきなのに、それができていない人に対してのケアもされていますか?
有沢 すごくいいご質問で、それはよく聞かれます。ジョブグレードを導入したときに給料が下がった人は結構います。その人たちはどちらかというと年齢が高く、ジョブグレードに照らし合わせると仕事に対して給料が高かったというケースです。
ジョブグレード導入時、そういう人が国内1850人中80数人いました。全員と面談して伝えたのは、「ジョブグレードで見るとあなたの仕事は基本的にこの値段です。だから給料は一時的に下がりましたが、2年かけて激変緩和措置でソフトランディングさせます。そして新しいポジションで頑張れば、またもう1つの上のジョブグレードの仕事に就ける可能性があります」ということです。
それでパフォーマンスが上がれば、必ず給料も上がる。それでもやる気がないというか、モチベーションがあまり上がらない人も一定数います。
そこでHRBP(Human Resource Business Partner。詳細は前編参照)が「今の仕事だとパフォーマンスが上がらないようですが、どうしてですか?」「次に就きたいのはこの仕事だとおっしゃっていますが、それはなぜですか?」といったことをその社員に聞き、社員が自分の心情を吐露できるような心理的安全性を担保する。そういう雰囲気作りを心掛けています。
なぜその社員がそういうモチベーションなのか。私たちがそこで極力分かるようにすれば、その後の対応も考えられます。
前野 やはりきめ細かですね。HRBPのコーチングとサポートにより、すべての人を取り残さないような仕組みになっています。ジョブ型をかなり強調される一方で、担当職はジョブ型ではないということですが、担当職とジョブ型の割合はどれくらいでしょうか。
有沢 国内1850人中、約1400人が担当職で、約450人が課長、部長、役員で、ジョブ型です。