行動制限が解除され、入国制限も大きく緩和されるなど、人々の生活は少しずつ「コロナ前」に戻りつつある。だが、一難去ってまた一難。ビジネスの世界では、円安や資材高が多くの企業を混乱のうずに巻き込んでいる。その状況下で、好決算を記録した企業とそうでない企業の差は何だったのか。上場企業が発表した直近四半期の決算における売上高を前年同期と比べ、各業界の主要企業が置かれた状況を分析した。今回は大塚ホールディングスやエーザイなどの「製薬」業界5社について解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)
認知症新薬のエーザイが営業利益9割減
コロナ新薬の塩野義製薬も3割減
企業の決算データを基に「直近四半期の業績」に焦点を当て、前年同期比で増収率を算出した。今回の対象は以下の製薬業界5社。対象期間は22年5~9月の四半期(4社いずれも22年7~9月期)としている。
各社の増収率は以下の通りだった。
・大塚ホールディングス
増収率:16.3%(四半期の売上収益4518億円)
・エーザイ
増収率:6.7%(四半期の売上収益1744億円)
・協和キリン
増収率:10.7%(四半期の売上収益985億円)
・塩野義製薬
増収率:3.7%(四半期の売上収益789億円)
・小野薬品工業
増収率:26.8%(四半期の売上収益1100億円)
昨今の製薬業界において、新薬開発で注目を集める企業といえば、エーザイと塩野義製薬だろう。
エーザイは22年9月28日、米製薬大手のバイオジェンと共同開発するアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、治験によって「症状の進行を抑える効果が確認された」と発表した。22年度中に米国・日本・欧州における承認申請の完了を目指しているという。
この発表を機に、エーザイの株価は急上昇。9月上旬は6000円前後だったが、発表後は一転して8000円近くまで値上がりした。12月中旬時点ではさらに上げて9500円前後で推移している。
また塩野義製薬では11月末、新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が厚生労働省に緊急承認されたことが話題になった。
これまでゾコーバの開発に大規模な研究開発費を投じたにもかかわらず、緊急承認を見送られてきただけに、塩野義製薬にとっては悲願達成だといえるだろう。
この薬にはまだ課題が残ると指摘されているが、その詳細は『「なぜゾコーバだけ特別扱いするのか」コロナ飲み薬緊急承認、審議紛糾の裏側』を参照してほしい。
また塩野義製薬は、コロナワクチンを承認申請したこともサプライズで発表した。国内の製薬会社による、自社開発したワクチンの承認申請は日本初である。
注目が集まるエーザイと塩野義製薬の四半期増収率は、上記の通りいずれもプラスで着地した。
だが、上半期(22年4~9月期)累計の業績に目を向けると、エーザイの営業利益は前年同期比で91.3%減と大幅減益に陥った。塩野義製薬の営業利益も同33.8%減と苦戦している。
2社に何が起きているのか――。次ページ以降では、各社の増収率の時系列推移を紹介するとともに、エーザイと塩野義製薬の現状について詳しく解説する。