2022年11月16日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「人の可能性を信じ『全員活躍』を実現する組織 ―有識者と考える人的資本経営― 」。その中のパネルディスカッションでは、村瀬俊朗氏(早稲田大学商学部 准教授)、萩谷惟史氏(経済産業省経済産業政策局産業人材課総括補佐 兼 大臣官房未来人材室)、坪井純子氏(キリンホールディングス 常務執行役員・人事総務戦略担当)、小野真吾氏(三井化学 グローバル人材部部長)が対談。後編では「ジョブローテーション」と「自律的なキャリアパス」の両立という観点から、人的資本経営の課題とその解決方法について議論された。(編集/ヴァーティカルメディア編集部 大根田康介、撮影/堀 哲平)
いくつもの仕事をするからこそ
「専門性」がより磨かれる
村瀬俊朗(以下、村瀬) 企業で中途採用が増えてくると、「昔の企業はそんなことをしていなかった」という声も徐々に多くなってきます。それが一定数を超えると、逆に「外からのフレッシュな風が吹いてくる」という声もあり、企業が変わりやすくなったというデータもあります。
そういう意味で、前編で萩谷さんがおっしゃっていた「どのように多様な人材を入れていくのか」というのがとても重要だと思います。
個人的には「日本の企業は人に投資せず、個人も学ばない」というデータを見たとき、かなり衝撃を受けました。一方で、多くの企業の人と話していると、それなりに投資している部分も見聞きします。なぜ、こんなにギャップが出てくるのか、とても気になっています。
萩谷惟史(以下、萩谷) 「GDP比で人材投資が下がっている」という分析結果をお示しさせていただきましたが、「日本ではOJTが中心で、OFF=JTによる教育訓練投資が十分に行われてこなかったのではないか」という指摘もあります。
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もちろん直近で、これだけ人への投資というテーマが盛り上がっており、企業の方々の関心も高まっている状況ですので、実際に企業がどう動いているのか、われわれとしてもしっかり見ていかなければならないと思っています。
また、個人のデータに関しては、「社外学習をしているか」といった質問をされたとき、日本人が「私は学び直しをしています」と自信を持って答えられるかどうか。そういうバイアスの問題もあるかもしれません。
一方、会社主導の「ジョブローテーション」の中で、例えば次の異動のタイミングで、どのポストに行くのかがあらかじめ分からない状況で、自ら将来的なキャリアパスを描きつつ、自発的に学ぶインセンティブが働くのか。これは課題だと思います。
その意味で、どう自律的にキャリアパスを考えてもらうかという点が重要です。このために必要な施策としては、例えば公募制の導入もあると思います。また、キャリアパスについて社員がどう考えているかを棚卸しして、それをシステムで管理して、上司とのコミュニケーションや任用に使う取り組みを進めている会社もいらっしゃると思います。
最近では、個人の学び直しや社内研修の中で、どんな学びをしたのかというデータベースも統合して、個人のラーニングやキャリア意向、過去の異動歴なども踏まえて任用を決定する企業も出てきていると聞きます。
村瀬 まったく新しいことでジョブローテーションが起こったとき、そこで新しい知見を得て、すごく頑張り、例えば「これはおかしい」と言えるようになったとか、今までしてきたことと違う部分で、「今までのことをさらに生かせる視点を獲得できた」といったこともあると思います。
一方で、専門性の重要さがジョブローテーションのせいでなくなってしまう可能性もあります。このシステムをどう捉えたらいいのか。人を生かすには、どんなジョブローテーションが良くて、どんなジョブローテーションにしてしまうと人を潰すことになるのか。いろいろ悩んでいます。
坪井純子(以下、坪井) 前編での私の説明は、ある専門の軸を決めて、それをベースにしながらキャリアアップしていく「キャリアジャーニー」を描こうというものです。
私自身のことを考えると、社命により、技術系からマーケティング、広報へと異動し、商業施設の横浜赤レンガで2年ほど社長をさせていただきました。おそらく、そういうキャリアを自分で希望することはなかったでしょう。社内でジョブローテーションした結果だったわけです。そういうことと、専門性という軸を持つハイブリッドでもいいのではないでしょうか。
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特に日本的な文化や教育を考えても、「私はこれで行きます」ということを大学卒業の時点で決めるのは、少し違うような気がしています。労働市場もハイブリッドに対してもう少し緩やかな気がしますので、私どもは「多様性」と「専門性」の両方をあえてグループで掲げています。個人の中にも「専門性はあるけど、多様性も保ちたい」という意識があり、いくつもの仕事をするからこそ専門性もより磨かれるというイメージです。