アニメは絵に音が付くことによって、初めて人の心を揺さぶる表現になる。もしアニメが無音だったら、どんなに魅力的な映像でも感情に訴える作品にはならないだろう。作品によっては、善良な市民であれば誰も知らない「人を刺す音」をそれっぽく表現する必要もあり、難しいかじ取りが求められる。アニメ制作者たちは、どのように音を作っているのだろうか。劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを担当した経験を持ち、書籍『アニメができるまで』を上梓した大塚隆史監督に聞いた。(執筆/フリーライター 堀田孝之、取材協力/アニメ監督 大塚隆史)
アニメは「絵」と「音」が
織りなすマジック
アニメは、全てが「ウソ」だ。
絵によって作られているため、実写ほどの現実味はない。登場人物がこの世に存在しないことなど、わかっている。
それなのに私たちは、「ウソ」だとわかっているアニメを見て、涙を流したり、感動したり、勇気や元気をもらえたり、恋をしたり憧れたりできる。どうしてだろう。
劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを担当した経験を持つ大塚隆史監督は、アニメが人の心を揺さぶるのに、「音」は欠かせないツールだと話す。
「音が付くことによって、映像に臨場感が生まれて、視聴者はアニメの世界に没入することができます。キャラクターに感情移入するためにも、音は欠かせないツールです」(大塚監督、以下同)
「アニメでは、絵と音がマッチすることで、人の心を揺さぶる魔法のような表現が可能なのです。ウソだとわかっているのに、そんなことは関係なく、感動できる。アニメは、絵と音が織りなすマジックだといえるかもしれませんね」
アニメには
3種類の音がある
大塚監督によると、アニメで使われる音は、大きく分けて3種類あるという。
一つ目は「音楽」。悲しいシーンで流れる曲、登場キャラのテーマなど、劇中で流れる全ての曲は、アニメ制作の現場では「音楽」と呼ばれ、専門の「音楽家」が制作する。
二つ目は「効果音」。歩く音やコップを置く音、爆発音や打撃音など、セリフや音楽以外の音を指す。「音響効果」と呼ばれる担当者が制作する。
三つ目は「声優の声」。言わずと知れた、キャラのセリフを表現する声である。声優が完成した映像(時間がない場合は未完成の映像)を見ながら、アフレコによって収録する。
これらの音楽や効果音の制作、そしてアフレコは、作画とは別ルートで進められる(詳しくは本連載第3回『プリキュア手掛けたアニメ監督が断言「絵が下手でもアニメ業界で働ける」理由』参照)。
「作画が終わり、撮影と編集を経て、無音の映像が完成したら、『ダビング』によって絵と音は融合します。こうしてようやく一つのアニメ作品が出来上がるわけです」
本記事では、この中の「音楽」と「効果音」について見ていくことにしよう。声優の仕事内容や「声優になる方法」は本連載の別の回で詳しく解説するので、興味がある方は楽しみにお待ちいただきたい。