職場での支援プロセス、3大ポイント
それでは、具体的な支援プロセスを、順を追って紹介する。
(1)状況の把握と、積極的な支援を行う対象層の特定
まずは誰が、どのような状況で亡くなり、それが社内でどんな情報として知られているのか、といった概要の把握を行う。
故人と同じ部署の人、同期や年の近い人、第一発見者、メンタルへルス不調を抱えている人などは、影響を受けやすい。まずは状況を把握し、特に積極的な支援が必要な対象を特定することが、支援計画を立てる上で重要となる。
(2)心情を打ち明ける機会を設ける
安心して今の気持ちや心身の反応、困り事を打ち明け、親身に受け止めてもらえる場を設けることが、ポストベンションの重要な役割だ。こうした心理的支援は専門性が高いものであるため、知識のある精神保健の専門家の下で実施するのが望ましい。
専門家によるカウンセリングでは、守秘義務が守られた空間で、第三者に対してだからこそ打ち明けられる思いを受け止めてもらうことができる。
また、グループで行うこともある。皆で思いを共有することで支えられる人がいる半面、個別にそっと打ち明けたい人もいるため、どちらが良いかはその職場の状況や従業員の状態によって検討する。
(3)心理教育・情報提供を行う
思っていることを抱え込んで言えないまま、自分や誰かを責め続ける中で、「自分はおかしくなってしまったのではないか」という不安に駆られる人は少なくない。カウンセリングでは、「あなたの心や体の反応は、正常なものですよ」と心理教育・情報提供することで、自分を否定せずに受け入れることを促しつつ、生じているつらさが和らぐように支援する。
このとき、生活習慣に関するアドバイスも行うケースが多い。メンタルの不調は、フィジカルの不調や行動面の変化にも表れるためだ。「緊張があり眠れない」「アルコールが増えた」「ご飯が食べられない」といった状態が続き、重症化していくと、生活リズムが乱れて引きこもりのような状態になってしまうこともある。規則正しい生活を続けることは、メンタルへルスを整える上で非常に大切だ。
ポストベンションでは、自分の反応と違う反応をする人がいることを、理解してもらうことも重要だ。例えば、「上司はなぜあんなに普通なのか」「笑い話をしているなんて不謹慎だ」と思う人もいるが、実は自分を保つために無理をして気丈に振る舞っている人もいる。心の回復のプロセスはさまざまで、表面的に見えている姿のみが全てではない。そうした理解が広まらないと、職場のあつれきにつながってしまう。
自殺者の出た職場では、このように個人の不調から、モチベーションの低下や生産性の低下といった組織全体に影響を与えるさまざまな問題が発生しがちだ。遺された人の負の感情をケアし、同じような人を発生させないための支援を通して、組織への支援を行うこともポストベンションの一つである。なお、ポストベンションが自殺の原因追及や調査を目的としたものではなく、ケアであることを丁寧に周知し、ケアを通じて見えた課題を以後の健康支援に生かすことが重要だ。