会社は隠さずに、事実を伝えるべき

 また、職場には誠実な情報開示も求められる。多くの場合、自殺者が出た話は、どれだけ隠しても社内のネットワークを経由して“うわさレベル”でどんどん広がってしまう。そのような中で早期に適切な情報開示を行わないことは、「会社として不誠実だ」「隠ぺいしているのではないか」といった従業員の不信感につながる。

 ただ、情報開示を行わない場合、その背景には遺族の意向があるケースもある。遺族の意向は何よりも優先すべきだが、「ご遺族の意向を尊重している」などと断りを入れつつも、伝えられる範囲で最大限誠実に、従業員に向き合うべきだ。

 世界保健機関(WHO)の自殺と精神疾患の関係調査によると、自殺者の95%は最後の行動に及ぶ前に、何らかの精神疾患を抱えているという。

 組織も(個人も)まずはメンタル不調を予防し、あるいは不調者を適切な支援につなげることで、自殺を未然に予防することが重要だ。日本の自殺者は年間2万人超いて、完全にゼロにすることは現実的に難しい。だからこそ、ポストベンション(遺された周囲の人々へのケア)が、自殺予防として重要なのだ。

 繰り返すが、自分一人で抱え込む必要はない。傷ついた心を癒やすために適切な支援を頼り、誰かに気持ちを打ち明けることの大切さを覚えていてほしい。

【監修】橋本 真紀子
エムステージ産業保健事業部に所属。臨床心理士、公認心理師、2級キャリアコンサルティング技能士、メンタルへルス法務主任者。神田東クリニック・MPSセンターのマネージャー心理職を経て、エムステージ入社。企業が抱える様々なメンタルへルス課題に対するコンサルティング、カウンセリング、セミナー、プログラム開発などの専門的支援を行う。