「お金」大全 #9写真:中国通信/時事通信フォト

幹部を側近で固め、異例の3期目に入った習近平・中国共産党総書記。突然のゼロコロナ政策の修正に踏み切ったものの、経済への統制を弱める気配はない。中期的な経済成長率も低下する中、成長率5%割れの常態化は必至だ。経済復活のためには、改革開放路線への復帰が欠かせない。特集『「お金」大全』(全17回)の#9では、習政権3期目の経済政策、経済動向を検証する。(東京財団政策研究所主席研究員 柯 隆)

潜在成長率は5%だが
足元下回る成長続く

 2022年11月に開かれた中国共産党大会でもともと引退するはずだった習近平総書記は続投が決まり、3期目に突入した。

 これは、すでに決まったルールでも恣意的に変更できるという前例になる。すなわち、ルールよりも権力がものをいうことになる。

 党大会では新たな執行部が選出され、その顔触れを見ると、全員が習総書記のイエスマンである。本来ならば、政策立案について党の執行部全員が平等な立場から切磋琢磨して議論し、ベストな政策を決定して実行するはずだが、習総書記への過度な権力集中により、習総書記の言うことに迎合するだけで絶対に異議を唱えない。

 これでは、間違った政策が決定されても、それにブレーキをかける人がいない。中国の政治において指導者は、神様と同じように過ちなど絶対に犯さないということになっている。この点は習政権の政策運営における最大のリスクといえる。

 これからの中国経済を展望する前に、ここで、今までの中国経済を振り返っておこう。中国の資本、労働と生産性の経済ファンダメンタルズを考察すれば、中国経済はかつての8%以上の成長を目指しても実現できないが、それでも潜在成長率は5%前後とみられる。

 下図に示したのは10年以降の中国の実質GDP(国内総生産)伸び率の推移である。

 習政権が誕生した13年の成長率は7.8%だったが、その後、年を追うごとに成長率が低下し、特にコロナ禍以降は大きく落ち込んでいる。22年3月の全国人民代表大会(全人代)で習政権が掲げた成長率目標は5.5%だったが、1~9月期の成長率(速報値)は3%と目標を大きく下回った。

 なぜ中国経済は成長が鈍化しているのか。次ページ以降でその原因を探るとともに、23年以降の経済政策、経済動向を検証する。