書影『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)
田中孝幸 著

カイゾク ああ、一般市民が、国がひどい状態であることを世界に伝えるのを防ぐために、SNSとかインターネットを自由に使えないように厳しく制限する。そして情報管理のやり方には、もう一つ、ジャーナリストたちにあまり仕事をさせないようにすることもある。

 ジャーナリストって新聞とかテレビとか?

カイゾク そうだ。こういう場合、国民の不満を押しつぶしていることなど、都合の悪いことを世界中に伝えようとする記者たちは、政府の敵になる。そういう国々では、常に記者の通話は盗み聞きされるし、ひどい時は牢屋に入れられたり殺されたりする。

大樹 そんなこと、本当にできるんですか?

カイゾク これは実際に起こっていることだ。でも、いくら徹底的に情報を管理しても、ひどいことを隠し続けるのには限界がある。全部ではなくても、一部はばれることになる。そうなると、隠そうとしていること自体も批判されるようになる。いずれにしても、記者に銃を向けるような国は、それよりずっと前に自分の国民に銃を向けているわけだ。だから、記者を殺すような国に未来はない、とわしは思っている。

 中国もロシアも、日本と全然違うんだね。二つとも海を挟んで日本のお隣さんなのに。

国同士の付き合いでもっとも重要なこと

大樹 僕たちはそんな大国と、どうやって付き合っていけばいいんでしょうか?

カイゾク 言っただろう。国と国との付き合いで大切なのは信頼関係だと。こんなに環境が違うから、その分、お互いのことを誤解しやすい。人間というのは、常に自分の育った環境を標準として世界を見ようとするものだ。中国人もロシア人も日本人も、同じ人間だ。違っているのは環境だけで、それぞれがその中で生き延びよう、幸せになろうと頑張っているにすぎない。そう思えれば『あいつは○○人だから信頼できない』とか、愚かな差別をすることはなくなる。

大樹 そう思うとクラスメートや友達、周りの人との付き合い方と同じですね、一人一人のことをちゃんと見て、その人のことをわかろうと努力する。

 カイゾクはそれを聞いて大樹ににっこりとほほえんだ。

カイゾク ああ、そして信頼関係が生まれる。

 家族もだよ、お兄ちゃん! 信頼関係が大事なんだから、妹のことあんまりばかにしないでよね。

 そう言われて、大樹は杏にふっと笑いかけた。

大樹 そうだな、まずは身近なところから意識しないとな。努力するよ。