「最初にデザインありき」という誤解

エンジニアリングから始める、技術系中小企業のための「デザイン経営」Tomoo Nobori
1966年生まれ。1984年フジテック株式会社入社。国内外のエレベータープロジェクトに20年間携わり、2003年の札幌駅南口開発プロジェクト(現:ステラプレイス、JR 日航ホテル)を最後に、エレベーター技術者を引退する。同年イタリアカーデザイン事務所に師事。2005年有限会社TOMO NOBORI DESIGN(2009年に現在の「株式会社ファシオネ」に社名変更)を設立。以降、レーシングカーデザインや北海道EV研究開発事業のプロジェクトディレクターなどを担当。2016年には札幌モーターショーに寒冷地仕様EVを出展する。3DCAD等のデジタル手法を用いた内部技術設計と製品デザインを並行してすすめるクリエイティブエンジニアリング手法で、モビリティーや産業機械、家電、LED照明、医療器具、布団、家具、その他幅広い製品の開発に携わる。公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会 広報 ギャラリー委員会・委員長。公益社団法人埼玉デザイン協議会 業務執行理事。

 機能設計や生産システムを具現化するエンジニアリングと、意匠を規定するデザインは、長く別物と考えられてきた。デザインはあくまでエンジニアリングの付随物であり、技術先行で製品像を固めた後、色や形を整えるためのもの、という認識が一般的だったのだ。もちろん、色や形といった意匠も、製品と人をつなぐインターフェースとして非常に重要だが、エンジニアリングと切り離されて事後的にデザインを施しても「見た目の印象」以上の価値を製品に与えにくい。

 近年では「デザインとエンジニアリングは不可分である」という認識が浸透しつつあり、まず製品のビジョンをデザインし、エンジニアリングでその具現化を目指すという、従来とは順序を逆にしたプロセスがイノベーティブな手法として盛んに語られるようになっている。もちろん、こうしたアプローチも素晴らしいのだが、「最初にデザインありき」というイメージが強過ぎると、冒頭の例のように、中小企業の経営者にデザイン活用をかえってちゅうちょさせてしまうこともある。

 重要なのは、デザインが先か、エンジニアリングが先かではなく、両者をいかにダイナミックに融合するかにある。潤沢なリソースを持たない中小企業にとっては、今回の事例のように、経営に直結したエンジニアリングの視点からスタートし、開発プロセスにデザインの視点を融合させていく方がスムーズだろう。

 エンジニアリングをデザインの視点で見直すことは、自社の技術に潜在する「意味」や「意義」を掘り起こす大きな契機になる。技術からビジョンを見いだし、そのビジョンを具体化するためにエンジニアリングを深化させていく──。こうしてエンジニアリングの射程を広げ、企業活動そのものを変革させていく試みは、技術に強みを持つ企業なら業種を問わず応用できるのではないだろうか。

公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) https://www.jida.or.jp/
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