──思わぬ追い風が吹いたわけですね。
戸部 追い風に乗れたのは、準備をしていたからだと思います。正直なところ、オートミールは長年売れていませんでした。しかし、全国のスーパーマーケットに1列だけでも置いてほしいとお願いし、1ロットを4袋だけにして仕入れやすくすることで、何とか棚を確保してきました。コストがかかる戦略ですが、売り逃しを防ぐとともに、お客さまの目に触れるようにしておくことが大切だと考えたのです。
──地道な努力が実を結びましたね。
戸部 大企業は商品が売れなければすぐに製造を中止するでしょう。しかし我々のような中小企業は、「売れないけれども社会に役立つ」「将来伸びるかもしれない」といった商品を売り続けられます。それが中小企業ならではの勝てる戦略であり、特権だと考えています。
──他の業界でも応用が利く話ですね。
戸部 中小企業が生き残るためには、他社が手がけていない商品を作ることも重要と考えています。そこで、オートミールでは離乳食用の製品を開発し、子ども用品専門の量販店に並べてもらっていますし、コーンフレークでは大人向けの高級コーンフレークを作っています。どちらの商品も有機原料で作っているのは、日本では弊社だけです。
──信用金庫では空知信用金庫さんと長年お付き合いがあるそうですね。
戸部 はい、50年以上になります。野菜の缶詰作りは収穫の一時期に大量に作って少しずつ売っていくので、作るときに多額の資金が必要な一方で、なかなか資金を回収できません。そこで空知信金さんから1年間の短期融資を受け続けてきました。この融資が受けられなければ、弊社はここまで続けられなかったでしょう。感謝しています。
──今後はどのように会社を伸ばしていこうとお考えでしょうか?
戸部 シリアル市場の規模をさらに広げていきたいと考えています。実はシリアル市場は550億〜600億円と規模が小さく、アイスクリームの一有名企業の売り上げ程度しかありません。
●日本食品製造合資会社 事業内容/穀類(オートミール、コーンフレークなど)、野菜類(スイートコーン缶詰など)の加工販売、従業員数/122人、売上高/42億2449万円(2021年度)、所在地/北海道札幌市西区八軒1条西1-2-10、/電話011-611-0224、URL/nihonshokuhin.co.jp
しかし、まだまだ市場を拡大する余地があると考えています。例えばシニア層にはあまり売れていませんし、コンビニでシリアルを買う人も少ない現状があります。そこで最近はシニア向けとコンビニ向けの製品を開発しています。
──新たなチャレンジですね。
戸部 弊社は歴史の長い会社ですが、老舗という意識はありません。祖父は日本に需要がない未知の商材にチャレンジしたわけですから、今考えるとすごいベンチャー精神の持ち主だったと思うのです。その精神を引き継いで他社にない商品を作り、市場を拡大していきます。
(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2023年2月号掲載、協力/空知信用金庫)